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【PLUS Report 2016年4月号】連載『ヘルスケア~医療・介護法制シリーズ』 第3回 法人制度比較 ~ 改正医療法を踏まえながら(前編)
連載企画 『ヘルスケア~医療・介護法制シリーズ』
第3回 法人制度比較 ~ 改正医療法を踏まえながら(前編)
PLUS Report では昨年7月号から執筆者担当毎の連載企画をスタートさせ、司法書士・医療経営士(2級)森田良彦にて、医療・介護を中心としたヘルスケア分野の法制度に関するトピックスを担当しております。
今月号では、医療法人とその他の法人制度の比較に関するお話をさせていただきます。医療機関の開設主体たる法人はいわずもがな非営利であることが求められますが、歴史的な経緯から株式会社が開設する医療機関も現に存在し、他方で非営利法人でも医療法人に限らず、社会福祉法人や一般・公益社団・財団法人のほか、学校法人(私立大学医学部の附属病院)や JA(厚生農業協同組合連合会。いわゆる「JA 厚生連」)、生協(通称「医療生協」)も医療機関を運営しています。そのほか、いわゆる MS 法人(主に株式会社)をグループに擁している医療法人も多くございますので、この機会に各種法人の制度比較を通じて理解を深めていただければと存じます。
なお、本編では、法人に関する基本的なお話のほか、法人の構成員(社員等)や各種機関(社員総会、理事等)に関する制度比較を行い、次編以降において、各種法人の合併等の組織再編その他の制度の比較についてお話する予定です。
※本号におきましては、医療法人に関する記述についてはすべて改正法(平成 27 年法律第 74号)に基づいております。なお、役員等の機関や合併、分割等に関する改正は、本年 9 月 1 日が施行日となっております。また、財団である医療法人の数は社団と比較して極めて少数であること及び医療法人社団の大部分が持分を有しているという現状を踏まえ、本レポートでは出資持分を有する(経過措置型)医療法人のみを採り上げますので、その旨ご了承ください。
PLUS Report では、本誌をより充実させ皆様に有益な情報を発信していくため、皆様のご意見・ご感想をお待ちしております。採り上げますテーマなどお気軽にご意見やご要望をお寄せ頂けましたら幸いです(PLUS Report 事務局 plus-report@plus-office.com)。
1.前提知識 ~ 「社団」 と 「財団」
*法人格の大分類 : 社 団 vs 財 団
添付一覧表の中身のお話に入る前に、まず法人を理解するうえで不可欠な前提知識についてお話しいたします。すべからく法人は、「人の集合体」である「社団」と、「財産の集合体」である「財団」のいずれかに分類されます。
(1)「社団法人」・「営利法人」
社団法人の代表格は株式会社です。「人」が法人に対する出資を通じて持分=「株式」を取得・「株主」たる地位を獲得して株主の組織体である「株主総会」を構成し、法人に対し、役員の人事をはじめ法人の運営に関する基礎的且つ重要な事項に対する決定権を行使します。
更に、「人」=株主は配当を通じ、法人が獲得した利益の分配を受ける権利を有します。
また、株式会社は営利法人でもありますが、営利法人にいう「営利」とは、前述の「法人が獲得した利益を構成員(株主)に分配することができる」ことを意味し、対外的な取引を通じて利益を獲得する行為・活動とは意味合いを異にすることに注意が必要です。社会医療法人(医療法第 42 条の 2)は厚生労働大臣が定める収益業務を行うことが可能なほか、社会医療法人ではない医療法人でも、病院の立替え予定地等として保有し現に医療法人の用に供していない遊休不動産を賃貸し、有益を得ることが一定の範囲で許容されるようになりました
(「運営管理指導要綱の改正について」。平成 27 年 5 月 31 日付医政発 0521 第 3 号)。したがいまして、営利法人であることと対外的な取引を通じて利益を獲得することとは別次元の問題であると整理できます。
(2)「財団法人」
これに対して財団法人は人ではなく、「財産」の集合体です。その財産を拠出するのはあくまで法人を含めた「人」なのですが、一旦法人に財産を拠出してしまうとその財産は拠出者から完全に切り離され、株式会社の株式のように出資の対価として法人から持分を取得したり、或いは法人の運営に対する決定権等の権利を獲得することはありません。したがいまして、財団法人には、社団法人にいう「構成員」に相当する者が存在しないこととなります(別紙の一覧表において、財団法人の構成員について記載を欠いているのは上記の理由によります)。
財団法人を設立しようとする者は、自ら拠出する財産を法人に帰属せしめるとともに、その財産の運用及び法人の運営に関する基本的ルール=定款を定め、その執行権限を理事会に委ねます。他方で、理事会の「暴走」を抑制するために評議員会や監事の設置が義務付けられ、また、法人の目的等一定の重要事項については、定款に規定がない限りこれを変更することは許されないとされています。
また、前述のとおり財団法人には構成員が存在しないため、営利~法人が獲得した利益を構成員に分配すること~がそもそも想定されないので、「営利財団法人」は制度上存在し得ないという結論に至ります。
2.法人制度比較 ~ 医療法人(社団)の特質
医療法人と他の法人格との制度比較を試みましたのが添付の一覧表です。営利法人の代表格である株式会社・合同会社と、非営利法人の代表格である一般社団法人・一般財団法人をピックアップいたしました。
(1)行政による監督
医療法人は設立に際して都道府県等の認可を要し、設立後に定款を変更する際にも原則として認可が必要となるほか、役員に変更があった場合の届出や、毎事業年度終了後 3 か月以内に事業報告や監査報告等の届出が義務付けられています。これに対して、株式会社や一般社団法人・一般財団法人(以下総称するときは「一般法人」)は、設立に際しては公証人による
定款の認証が必要ですが、設立後の法人運営は専ら法人の自治に委ねられます。役員の選解任や定款の変更のほか、構成員の入退社についてもその運用は法人(定款、社員総会や理事会等の法人内部の機関)に委ねられ、法人に幅広い裁量・自治が認められています。
換言しますと、医療法人は法人の運営に関し、許認可や届出その他指導を通じて監督官庁の関与があるため一定の「歯止め」がかかる余地がありますが、株式会社や一般法人の場合は、法人による自治が徹底されている結果、構成員・評議員や役員の属性、人選等の如何によって、その運営や方針(ひいては今後の趨勢)が大きく左右されるかたちとなります。
(2)構成員による意思決定(社団)
医療法人(社団)では、役員の選任や定款の変更等、法律又は定款で定められた重要事項を社員総会において決定します。株式会社の場合は株主総会がこれに相当しますが、株主総会は株主の有する出資持分=持ち株数(議決権)に応じた多数決によるところ、医療法人の場合は社員 1 人につき 1 個の議決権を有し、出資持分の有無やその額の多寡は一切問われませ
ん。医療法人は株式会社と異なり、構成員(社員)たる地位と出資持分の保有者たる地位が分離されているという性質が、社員総会における議決権の行使において鮮明に浮かび上がります。なお、一般社団法人は制度上持分という概念がありませんので、医療法人と同様、社員総会において社員 1 人につき 1 個の議決権を有します。
(3)業務執行に関する意思決定
社団・財団の別を問わず、法人は法律が擬制した「人」であり、我々生身の人間(自然人)と異なり「体」を有しませんので、法人を「動かす」=業務を執行する ための「機関」が必要であることは共通しています。
別紙一覧表のとおり、株式会社では取締役(会)が、医療法人や一般法人では理事(会)がこれに相当します。なお、「(会)」の意味は、株式会社や一般社団法人では取締役会や理事会の設置が義務付けられないケースがあるところ、医療法人及び一般財団法人は理事会の設置が法律上義務付けられており、法人格の種類によって制度設計が異なっていることを表しています。
いずれも構成員等から信任を受けた取締役・理事が法人の業務執行に関する合議体を構成し意思決定を行い、取締役・理事の中から選定された代表者(代表取締役・理事長・代表理事)が、法人を代表してその業務を執行することとなります。
*医療法人に固有の制限*
役員について株式会社や一般法人には置かれていない制限として、医療法人は、その開設するすべての病院等の施設の管理者を理事に加えることが義務付けられております(医療法第 47 条)。また、管理者は、原則として他の病院等の管理者でないことが求められます(同第 12 条 2 項)ので、医療法人には、その法人が有する施設の数だけ理事が必要となります。
(4)まとめと注意点 ~ 法人の安定した運営・オペレーションのために
上記のとおり、同じ医療機関の開設・運営を行う法人であっても、その法人格の種類(根拠法)によって、法人自体の運営・オペレーションに違いがあることがご理解いただけると思います。
※社員の属性と占有率
特に、一般社団法人や医療法人のように、出資持分そのものが存在しない或いは出資持分と構成員=社員たる地位が分離されている法人格では、社員総会において重要な意思決定を行う際には個々の社員が各々1 個の議決権を有している(=頭数要件)ので、「どのような属性の社員が、社員全体のどれだけの割合を占めているのか」が極めて重要な要素となります。
例えばですが、理事長といえども、2 年の役員任期が満了した際に社員総会において理事に再選されなければ、法人の代表者たる地位はおろか役員たる地位そのものを失うこととなります。仮に理事長も社員であり当該法人の出資持分の 100%を有していても、社員の過半数の賛成が得られなければ結論は変わりません。
※理事と社員は「別物」~理事と社員の地位の比較
① 理 事
理事はあくまで合議機関である理事会のメンバーの 1 人に過ぎず、理事長に選定されない限り法人を代表する権限もなく、社員総会の支持が得られなければその地位を失います。しかも、2 年の法定任期が満了する都度、社員総会においてその信任を獲得し続けなければなりません。これは、役員と法人との関係は、株式会社と同様民法上の委任に関する規定に従うことによります(平成 28 年 3 月 25 日医政発 0325 第 3 号「医療法人の機関について」)。
更に、理事は法人に対して委任契約上の受任者としての善管注意義務を負い、加えて法人のために忠実にその職務を行う義務(忠実義務)も課されます。
② 社 員
前述のとおり、社員は法人の構成員であり、重要事項の決定の際社員総会において 1 票を投じる権利を有します。また、社員たる地位の資格の取得・喪失については定款の規定事項とされており(医療法第 44 条 2 項 7 号)、法人が社員たる地位を一旦付与すると、当該社員の意思に反して社員たる地位を喪失せしめること(=除名)は、役員の場合と比して相当に
困難であるといえます。また、社員は理事等の役員ではないので任期の概念もなく、善管注意義務等を法人に対して負担することもありません。
例えばですが、医療法人において新しい施設を設けるため、新たに医師を採用し理事とするところまでは、他に候補者(既存の管理者でない常勤の医師)がいなければやむを得ないところですが、その医師を安易に社員として迎え入れることは避けるべきでしょう。
(5)その他 ~ 合同会社とは?
別紙一覧表中の合同会社についてその概略をお話しますと、合同会社はいわば「組合」が法人化された会社類型であり、株式会社は所有(株主)と経営(取締役等)が制度上分離されているのに対し、合同会社は出資と経営が(原則として)ひとつの人格に帰属しています。
いわば「おらが村」で村民全員が村の会議(運営)に参加し決められたことを皆で守っていくように、構成員(社員)全員が合議に参画し業務執行も司る形態を採用しています。また、株式会社や一般法人と異なり、設立時に公証人による定款の認証が不要です(許認可も必要ありません)ので、設立コストが廉価であるという特徴があります。
平成 18 年の会社法改正に伴い新設されたもので、施行当初の設立数は年間 3400 弱でしたが、平成 26 年度では 2 万近い合同会社が新たに誕生しています。この 2,3 年で設立件数が急速に増えており、その用途(活用方法)も様々検討が重ねられています。
次号は本号の続編として、各種法人の組織再編に関する制度比較を中心にお話いたします。
(文責 : パートナー司法書士・医療経営士2級 森田良彦)
本レポートは法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については各々固有・格別の事情・状況に応じた適切な助言を求めていただく必要がございます。また、本稿に記載の見解は執筆担当者の個人的な見解であり、当法人若しくは当グループ又は当法人のクライアントの見解ではありません。連載『ヘルスケア~医療・介護法制シリーズ』
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第3回 法人制度比較 ~ 改正医療法を踏まえながら(前編)
【別紙】各種法人制度・組織に関する比較表