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【PLUS Report 2015年4月号】会社法改正と実務のポイント③(キャッシュアウト)
会社法改正と実務のポイント③ (キャッシュ・アウト)
PLUS Report 創刊号・3月号に引き続き、本年 5 月 1 日の施行が決定しました「会社法の一部を改正する法律案」(法律第 90 号、以下「改正会社法」という。)のうち、キャッシュ・アウト(金銭
を対価とする少数株主の締め出し)に関する改正点をピックアップして解説します。
1.新制度の創設
Point 特別支配株主の株式等売渡請求
機動的なキャッシュ・アウトを可能とするため、総株主の議決権の 10 分の 9 以上を有する株主(特別支配株主)が、株主総会決議を経ることなく、他の株主(少数株主)全員に対して、その有する株式の全部を売り渡すことを請求できる制度が創設されました(改正会社法 179 条~179 条の 10)。
解 説
☑ ①短期的な収益に捉われない、長期的視野に立った柔軟な経営の実現 ②株主総会に関する手続の省略による意思決定の迅速化 ③株主管理コストの削減 等を目的として、いわゆる上場会社が公開買付け(TOB)を通じて非上場化する動きは現行会社法施行後間もない頃から散見され、ときには買取価格をめぐる株主・会社間の紛争が新聞紙上を賑わすこともございました。
☑ 少数株主から株式を「召し上げる」ために採りうる法務手続について、現行制度下ではいずれも株主総会の決議を要するところ、「特別支配株主による株式等売渡請求」は、株主総会決議や少数株主の個別の同意を要することなく、売渡しの請求対象となる株式の発行会社(対象会社)の取締役(会)の決定(決議)を通じて、他の株主全員に対してその全部を(強制的に)売り渡すことを請求できる制度です(なお、株式「等」は、潜在的株式である新株予約権もその対象となることを指します)。
☑ 本制度の概要・プロセスは、別紙1をご参照ください。
2.既存制度の整備
Point 既存のキャッシュ・アウトにおける株主保護の強化
新制度の創設のほか、現行制度下でキャッシュ・アウトを目的として採用される法務手続に関して、少数株主の保護を目的とした規定の整備が併せて行われました。
解 説
☑ キャッシュ・アウトを目的として採用される法務手続の概要は別紙2のとおりです。
前述のとおり、現行制度下ではいずれも株主総会の決議を要するほか、それぞれ次のようなデメリット・問題点を抱えています。
→ 株式併合 : 1株未満の端数を有することとなる少数株主の保護に欠け、訴訟リスクが高い。
→ 株式交換 : 税制上非適格組織再編成となる。
(金銭対価) : 債権者保護手続を要し、1株未満の端数処理に財源規制(剰余金の分配可能額の範囲内)の適用がある。
→ 全部取得条項付種類株式
: 株主に対する通知・公告制度を欠くため、自らの株式を取得されることを知らないまま、裁判所に対する価格決定の申立期間を徒過するおそれがある。
☑ 上記のうち少数株主の保護の問題に関して、改正会社法では、現行の3制度に吸収合併等組織再編の際と同様の情報開示・株式買取請求手続が採用され、適正な価格での買取りの機会付与が図られました。
3.実務のポイント
① 選択肢の拡大
新制度の創設及び既存制度の整備により、キャッシュ・アウトを目的とした法務手続の選択の幅が広がりました。対象会社の状況・諸事情に応じて、各種手続のメリット・デメリットを考慮しつつスキームの精査・選択を行うことが求められます。
② 新制度(特別支配株主の株式等売渡請求)の中小企業への適否に関する考察
□本制度は、特別支配株主から少数株主に対する株式の売渡請求という「建て付け」を採りながら、特別支配株主が株式の売渡しを請求する直接の相手方は、少数株主ではなく対象株式の発行会社(対象会社)です(別紙1参照)。
□上記の請求を受けた対象会社は、取締役(会)において当該売渡請求の承認の是非を判断し、これを承認するときはその旨を株主に通知(又は公告)し、当該通知がなされたときに特別支配株主からの売渡請求があったものとみなされます。
□対象会社の取締役は、その承認の是非を判断する際には、対価の相当性その他の条件の適正のほか、特別支配株主の少数株主に対する対価交付の合理的な見込みの有無等も判断しなければならず、これによって少数株主に損害を与えた場合には、善管注意義務違反として損害賠償責任を負うこととなります。
□他方で、中小企業の大半は非公開会社(発行する株式の全部について譲渡制限が付されている会社)であり、いわゆる上場会社と比して、株主総会の招集・開催に多大なコストを要するケースは比較的少ないものと推測されます。また、これら株式を取引する市場がないため、その価値の算定は上場会社のそれと比してしばしば困難を伴います。
□中小企業では類型的に「所有と経営」が一致をみることが多く、中小企業の株式は、投資対象よりもむしろ支配権的な価値性が強く前面に出ます。
□したがって、中小企業におけるキャッシュ・アウトの局面は、単なる金銭的な問題にとどまらず、支配権をめぐる争いとして株主間の対立が表面化していることが想定され、本制度の採用・履行が、少数株主から大株主たる経営者に対する、善管注意義務違反による損害賠償請求等紛争リスクを高めるおそれがあります。
□以上から、中小企業におけるキャッシュ・アウトの手段としての、特別支配株主による株式売渡請求制度の採用には、リスクコントロールを中心とした慎重な検討を要するものと考えます。
(文責 :パートナー 司法書士 森田 良彦)
本レポートは法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については各々固有・格別の事情・状況に応じた適切な助言を求めていただく必要がございます。また、本稿に記載の見解は執筆担当者の個人的な見解であり、当法人若しくは当グループ又は当法人のクライアントの見解ではありません。※PDFはこちら。
会社法改正と実務のポイント③(キャッシュアウト)
別紙1(株式等売渡請求制度)
別紙2(手続比較表)