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【PLUS Report 2015年9月号】新連載『ヘルスケア~医療・介護法制シリーズ』 第1回 医療法人 ~制度創設とその変遷~(中編)

新連載 『ヘルスケア~医療・介護法制シリーズ』

第1回 医療法人 ~制度創設とその変遷~(中編)

7月号にてご案内のとおり、PLUS Report では執筆者担当毎の連載企画をスタートさせておりますが、新連載の第2弾として、医療・介護を中心としたヘルスケア分野の法制度にするトピックスを、司法書士・医療経営士(2級)森田良彦にて担当しております。

本シリーズの第2回目は8月号『医療法人~制度創設とその変遷~』の続編として、平成 4年以降の医療法改正(第2次~第6次)が医療法人制度に与えた影響を、改正の経緯を追いながら辿ってまいりたいと思います。

なお、本レポートでは専ら医療法人に関する改正ポイントに絞ってご案内いたしますので、その他の改正内容の詳細につきましては、その他の文献・資料に委ねたいと思いますのでその旨申し添えます。

PLUS Report では、本誌をより充実させ皆様に有益な情報を発信していくため、皆様のご意見・ご感想をお待ちしております。採り上げますテーマなどお気軽にご意見やご要望をお寄せ頂けましたら幸いです(PLUS Report 事務局 plus-report@plus-office.com)。

3.第2次改正から第6次改正まで

第1次改正後、医療法は 10 年を待つことなく、第2次(平成 4 年)、第3次(平成 9 年)、第4次(平成 12 年)、第5次(平成 18 年)、第6次(平成 26 年)と改正が続きました。
医療法人に関する改正ポイントは以下のとおりです。なお、医療法人制度に大きなインパクトを与えた第5次改正については詳述します。

(1)第2次改正(平成 4 年 7 月公布) :医療法人の附帯業務の拡大(1)
□本改正は、人口の高齢化、医学医術の進歩、疾病構造や患者の受療行動の変化等に対応し、患者の心身の状況に応じた良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制を確保することが主眼となりました。これを受け「医療提供の理念」が医療法第 1 条の 2 として初めて設けられました(傍線筆者)。
①医療は、生命の尊重と個人の尊厳の保持を旨とし、医師~その他医療の担い手と医療を受ける者との間の信頼関係に基づき、医療を受ける者の心身の状況に応じて行われ、単に治療のみならず、疾病の予防のための措置及びリハビリテーションまでを含む良質かつ適切なものでなければならない。
②医療は、国民の健康の保持のための努力を基礎として、病院、診療所、~(以下「医療提供施設」という。)、医療を受ける者の居宅等において、医療提供施設の機能に応じ効率的に提供されなければならない。

□上記の理念を踏まえ、医療法人の附帯業務として、疾病予防のための有酸素運動、または温泉を利用させる施設の設置が認められました。また、医療法に基づくものではありませんが、在宅介護支援センターや介護利用型軽費老人ホーム(ケアハウス)、在宅福祉事業の実施も、保健・医療・福祉の連携を図る視点から併せて認められました。

(2)第3次改正(平成 9 年 12 月公布) :医療法人の業務範囲の拡大(2)
□本改正の主要テーマ・課題は次のとおりです(傍線筆者)。
①人口構造の高齢化の進展(要介護者の増大)、慢性疾患中心への疾病構造の変化、医療の質に対する国民の要望の高まり等の医療を取り巻く環境の著しい変化への対応。
②日常生活圏において、通常の医療需要に対応できるための医療提供体制の整備及び患者の立場に立った医療に関する情報提供の促進

□上記を踏まえ、平成 4 年に引き続き医療法人の業務の範囲が拡大されました。
=デイサービス(通所介護)事業、ショートステイ(短期入所生活介護)事業等、老人居宅介護等事業等の第二種社会福祉事業(社会福祉法)のうち厚生大臣(当時)の定めるもの

□また、公益性の高い所定の要件を満たす医療法人を「特別医療法人」と定め、定款又は寄附行為に定めを置くことにより収益事業(厚生大臣の定めるものに限る)を行うことを可能とし、その収益を病院等の経営に充てるものとされました(ただし、第 5 次改正により、後述する社会医療法人に制度上統合されるかたちで廃止されました)。

(第4次改正では、①病床区分の届出(一般・療養) ②医師の臨床研修の必修化 ③広告規制の緩和 が改正の中心となりました)

(3)第5次改正(平成 18 年 12 月公布) :出資持分の廃止・社会医療法人制度の創設等
□昭和 25 年の制度創設以来、医療法人に関する初の大規模な改正が行われました。改正ポイントは①出資持分の廃止 ②社会医療法人制度の創設 ③内部管理体制の明確化 ④附帯業
務の拡大 の4点です。

①出資持分の廃止
医療法人の出資持分は、改正法第 44 条第 5 項及び医療法施行規則第 31 条の 2 により、法人設立時の定款において、解散後の残余財産の帰属先を国・地方公共団体又は公的医療機関や持分の定めのない医療法人等に制限し、出資者への分配を認めないことをもって否定・廃止されました。
上記改正の背後にあるものは「非営利性の徹底」にあります。これは、平成 17 年 3 月に閣議決定された「規制改革・民間開放推進3か年計画」において、「医療法人を通じた
株式会社等の医療機関経営への参入」と題して、①株式会社による医療機関経営への参入等医療機関経営の多角化 ②経営の透明性の向上・グループ経営の実現・規模の経済の追求によるコスト抑制等を通じた医療機関の経営の近代化 を推し進めようとした内閣の動きに対し、非営利をアイデンティティとする厚生省(当時)が執った「対抗措置」と捉えられています。
本改正法施行後は出資持分のある医療法人を設立することができなくなることから、当職自身、本改正法施行直前の平成 19 年の春先に医療法人(社団)の「駆け込み」設立登記手続を受託したことを、今でも鮮明に記憶しております。
なお、本改正法施行当時、既に存在していた出資持分を有する医療法人については改正法の附則により「当分の間」存続し、いわゆる「経過措置型医療法人」と称され現在も出資持分を有した状態でその運営が継続されています(とはいえ、現存する 5 万近い医療法人のうち持分を有する医療法人は 4 万 1000 を超えていますので、数の上では原則と例外が逆転しており、今後も当面はこの状況が続くと思われます)。

②社会医療法人制度の創設
救急、災害、へき地、周産期、(救急を含めた)小児等の「救急医療等確保事業」を行い都道府県の地域医療計画(第1次改正で策定が義務付けられました)に明記された医療法人は、他の所定の要件を充足し都道府県から「社会医療法人」の認定を受けると、一定の収益業務*を行うことができるほか、本来業務である医療保健業その他非収益事業については法人税が課税されず、一定範囲の所有不動産につき不動産取得税、固定資産税及び都市計画税も非課税扱いとなります。
換言しますと、救急や災害医療等地域で特に必要な医療提供を担う医療法人で公益性が高いものを社会医療法人として位置付け、税制上の優遇措置を設け地域医療への参加を促進することにより、良質かつ適切な医療を効率的に提供するための体制確保を図っているものといえます。
*本年 5 月に医療法人の運営管理指導要綱が改正され、将来の病院建替え等のために取得した土地の賃貸等、遊休資産の活用が一定範囲で認められるようになりました。

③内部管理体制の明確化
医療法人の適正な運営(ガバナンス)を確保する観点から、役員等に関して次のとおりの見直しが図られました。
1) 役員任期の上限(2年)規定・欠員時の補充に関する規定の新設
2) 監事の職務を明記。監事機能の強化
3) 社員総会を医療法人の機関として位置付け。社員の議決権等に関する規定整備
4) 評議員会の設置(財団)
※法人の機関・ガバナンスについては、医療法人とその他各種法人制度との比較を採り上
げる予定ですので、その際に詳述したいと思います。

④附帯業務の拡大
従来から認められていた介護事業の範囲が更に拡大され、所定の介護予防事業のほか老人福祉法の有料老人ホームも設置することが可能となりました。

(4)第6次改正(平成 26 年)
:医療法人の合併制度の変更・持分なし医療法人への移行の促進
①医療法人の再生を支援するための施策のひとつとして合併制度の見直しが図られました(以下に許容される当事法人の種類の組合せ・パターンをご紹介します)。


※合併前の医療法人のいずれかが持分の定めのない医療法人であり、それ以外が持分の定めのある医療法人である場合には、合併後の存続法人は持分のない医療法人に限られます。
※※新設合併の場合には、存続法人は持分のない医療法人となります。

②持分なし医療法人への移行の促進(認定医療法人制度)
出資額限度法人制度その他持分あり医療法人から持分なし医療法人への移行やそのスキームに関する書籍・文献の類は巷に溢れており、移行促進制度の内容紹介も含め委細はこれらに譲りますが、押し並べていえることは、一族・同族経営=プライベート・オーナーシップを維持するかぎりにおいては課税の問題を回避できないという点にあります。あるアンケート調査結果によれば、持分あり医療法人の経営者で引き続き一族・同族経営の継続を希望し、持分解消時の課税もやむなしとする方の割合が、一族・同族経営から脱し課税リスクをヘッジして持分なし医療法人へ移行したいとする割合を大きく上回っていたとのことでした。医療法人制度発足の段階から孕んでいる、非営利性と出資持分の「同居・併存」という矛盾が完全に解消されるまでにはまだしばらく時間を要しそうです。

『医療法人~制度創設とその変遷~』の最終回となる後編では、9 月 16 日参議院本会議において可決成立した改正医療法を中心にお話したいと思います。

(文責 : パートナー司法書士・医療経営士2級 森田良彦)

本レポートは法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については各々固有・格別の事情・状況に応じた適切な助言を求めていただく必要がございます。また、本稿に記載の見解は執筆担当者の個人的な見解であり、当法人若しくは当グループ又は当法人のクライアントの見解ではありません。

新連載 『ヘルスケア~医療・介護法制シリーズ』
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第1回 医療法人 ~制度創設とその変遷~(中編)