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【PLUS Report 2015年11月号】連載『会社運営に役立つ法制度』 第2回 在庫や売掛債権の担保と活用法
連載 『会社運営に役立つ法制度』
第2回 在庫や売掛債権の担保と活用法
今月号は、本年7月号から開始しました連載『会社運営に役立つ法制度』の第2回です。
「在庫や売掛債権の担保と活用法」と題し、在庫や売掛債権に着目した資金調達などの活用法についてご紹介します。
1.どんな場合に活用できる?
□資金調達への活用
資金調達の新たな選択肢として、多くの金融機関では、在庫や売掛債権を活用した融資メニューが提供され始めています。これらの在庫や売掛債権を活用した融資手法は、一般に ABL(Asset-Based-Lending)と称されています。
在庫や売掛債権は、不動産とは異なり、数量や種類が日々変動します。そのため、ABL による融資を受ける場合には、一般に、在庫や売掛債権の残高等の資料を定期的に提出することが求められます。借り手となる企業にとっては、資料提出に係る手間やコストが生じますため、
これは ABL を利用するデメリットといえるかもしれません。一方、これらの情報共有を通じたコミュニケーションが図られることによって、決算書などの資料では伝わらない自社の事業の仕組みや実態が、貸し手である金融機関に伝わりやすくなるといえます。
この情報共有やコミュニケーションには、良い面も悪い面もあるかもしれません。しかし、例えば、十分な収益力をもった事業を行っているにもかかわらず、不動産を担保提供できないために、資金の調達や借入条件の交渉に苦慮されている企業などであれば、自社の実態を反映した評価を受けやすくなることに繋がり、資金調達の幅が広がる可能性も期待されます。
⇒在庫や売掛債権を活用した融資メニューが提供され始めています。
□債権管理への活用
動産担保・債権担保は、自社の売掛債権の保全にも有用です。
例えば、新たに取引開始を検討している卸先企業について、与信に不安はあるものの、取引を開始したいようなケースでは、取引開始の条件として、その企業に対し、在庫や売掛債権の担保提供を求めることも考えられます。ただし、担保提供を受けるためには、相手方の協力が不可欠ですので、この手法が現実的に可能となるのは、ビジネス上の力関係にある程度の差がある場合など限られたケースになるかもしれません。
⇒売掛債権の保全策として、動産担保・債権担保を活用する方法があります。
2.在庫や売掛債権の登記ってどんなもの?
在庫や売掛債権の担保提供を受けた場合、その権利を第三者に対抗できるようにするため、動産・債権譲渡登記を利用することができます(注)。
動産・債権譲渡登記は、動産譲渡登記が平成 17 年、債権譲渡登記が平成 10 年から開始された比較的新しい登記制度ですので、現段階では馴染みの薄い制度であるかもしれません。また、全国でも東京法務局民事行政部動産登録課・債権登録課(東京法務局中野出張所庁舎内)のみが管轄法務局とされていることや、動産や債権の内容に応じた登記内容を個別に検討する必要があることなど、他の登記とは異なるルールや留意点が多く存在します。動産・債権譲渡登記の利用を検討なさる場合には、お早目に登記の専門家である司法書士にアドバイスを求められることをお勧めします。
最後に、動産・債権譲登記の具体的な内容のご紹介に代えて、登記事項証明書のサンプルを別紙にてご紹介いたします。よろしければご参照ください。
(注)
・不動産の場合と異なり、動産・債権の譲渡の場合には、登記以外の対抗要件(動産の場合には引渡(民法178 条)、債権の場合には確定日付を付した通知(民法 467 条))がありますため、動産担保・債権担保をした場合に、必ずしもその登記がされるわけではありません。
・登録自動車等の一定の動産や金銭債権債以外の債権、個人からの譲渡など、動産・債権譲渡登記を利用できないケースもあります。
・動産・債権譲渡登記の適用範囲については、担保目的の譲渡に限定されていません(例えば、動産・債権を売買した場合にも利用することが可能です)。
(文責 : 司法書士 小野絵里)
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