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【PLUS Report 2015年12月号】連載『ヘルスケア~医療・介護法制シリーズ』 第2回 医療法人の「出資持分」・「社員」

連載 『ヘルスケア~医療・介護法制シリーズ』

第2回 医療法人の「出資持分」・「社員」

PLUS Report では7月号から執筆者担当毎の連載企画をスタートさせておりますが、新連載の第2弾として、医療・介護を中心としたヘルスケア分野の法制度に関するトピックスを、司法書士・医療経営士(2級)森田良彦が担当しております。

10 月号におきまして、次号では医療法人とその他の法人制度の比較についてお話する旨をご案内しておりましたが、本号では、その比較の前提知識の獲得を主旨としまして『医療法人の「出資持分」・「社員」』をテーマに採り上げたいと思います。

微減傾向にあるものの持分を有する医療法人が全医療法人のうちに占める割合は、依然として 80%を超えております(平成 27 年 3 月 31 日現在)。また、医療法人のM&Aの局面においても出資持分や社員への対処が最大の論点となるケースもございますので、それらの法的な性質、両者の関係等も含めて考察を加えてみたいと思います。

PLUS Report では、本誌をより充実させ皆様に有益な情報を発信していくため、皆様のご意見・ご感想をお待ちしております。採り上げますテーマなどお気軽にご意見やご要望をお寄せ頂けましたら幸いです(PLUS Report 事務局 plus-report@plus-office.com)。

1.医療法人と出資持分

(1)非営利性と出資持分の「併存」
そもそも非営利=出資者に対して利益分配を行わない法人である医療法人に、なぜ出資持分という概念が持ち込まれたかについては、8 月号「第 1 回 医療法人~制度創設とその変遷~(前編)」においてご案内のとおり、第2次大戦後の荒廃した医療提供体制の早急な立て直しを緊縮財政(ドッジ・ライン)下において実現するためには民間資本を活用する必要があり、その受け皿として医療法人制度を創設・医療法人への出資を促すためのインセンティブ(キャピタルゲインの獲得)として、出資持分という概念を持ち込まざるを得なかったという事情がありました。

(2)医療法と出資持分
前述の事情から、医療の非営利性を標榜する厚生省(当時)からすれば医療法人における出資持分の存在は「鬼子」に等しく、医療法においても医療法人の「出資」或いは「持分」に関する規定が置かれることはなく、モデル定款において、解散時の残余財産の分配方法として払込済出資額に応じて分配すべき旨が示されるに留まっておりました。
医療法の歴史の中で出資持分がクローズアップされたのは、第5次医療法改正(平成 19 年施行)において、医療法人の非営利性の徹底が図られたことにより持分概念が否定された局面においてでした。同改正により出資持分を有する医療法人の設立が叶わなくなり、既存の出資持分を有する医療法人は「経過措置型医療法人」として「当分の間」その存続が許されるとする地位に位置付けられ、出資持分を有さない「新医療法人」への移行を促す医療法の「附則」において、「出資者」、「出資額」、「持分」といった文言が、わずかに両手で足りる程度に置かれています。

2.医療法人の「社員」

医療法人に限らず、あらゆる社団法人に関する規律において、「社員」とは当該法人の構成員を意味します(いわゆる従業員・被用者とは概念を異にします)。法律上「営利」(=利益を構成員に分配する)且つ「社団」(=「人=社員」の集合体により構成された)法人と位置づけられる株式会社においては、株主が「社員」に相当します。営利・非営利を問わず、社団法人の社員は、社員総会(株式会社では株主総会がこれに相当します)の構成員として法人運営に参画し、法人の基礎的且つ重要な決定事項について議決権を有します。

株式会社の株主は、対象会社に出資を行い(多くは市場において取引されている株式を購入し)その対価として持分=株式を取得することを通じ株主たる地位を獲得します。他方、医療法人の社員については、医療法上その資格要件等の規定は置かれておらず、社員たる資格の取得又は喪失については定款事項として整理されています(医療法第 44 条第 2 項第 7 号)。
厚生労働省のいわゆる「モデル定款」においては、「本社団の社員になろうとする者は、社員総会の承認を得なければならない。」と示されるに留まりますが、医療法人の非営利性から、株式会社等の営利法人が医療法人の社員となることができないことはもとより、法律上の原理・原則から、営利・非営利を問わず、法人は医療法人の社員となることができないとする見解もあります。更に、社員が法人の重要な意思決定に参画する地位にあることから、義務教育を修了する前の未成年者を社員とすることはふさわしくない旨が「医療法人管理運営指導要綱」(厚生労働省)において明らかにされています。なお、株式会社の株主と異なり、医療法人の社員は、その地位の獲得に際して出資を行う(=出資持分を取得・保有する)ことは要件とされておりません。

株式会社の株主は、原則としてその持ち株数に応じて議決権や剰余金の配当を受ける権利を有します。他方、医療法人の社員は、社員総会において「各一個の議決権を有する」と規定されており(同法第 48 条の 4 第 1 項)、出資持分の有無やその保有割合とは無関係にいわゆる「頭数」に基づき権利が定められています。また、医療法人は非営利法人ですので剰余金(利益)の配当を行うことは禁止され(同法第 54 条)、社員はこれを受ける権利を有しません。

3.医療法人の「出資持分」と「社員」の関係

(1)まとめ(中間的議論の整理)
以上の議論を整理しますと、医療法人の出資持分と社員たる地位の関係について、次の結論を導き得ます。
①医療法人の社員には、出資持分を有する社員とこれを有しない社員とが存在しうる。
②医療法人の社員たる地位は有しないが、出資持分(のみ)を保有する者が存在しうる。
③医療法人の出資持分を取得しても、その法人の社員となる資格まで取得するものではない。

特に③に関して、出資持分を有する医療法人の社員が死亡・相続が開始した場合において、「医療法人管理運営指導要綱」(前出)によれば、「出資持分の定めのある医療法人の場合、相続等により出資持分の払戻し請求権を得た場合であっても、社員としての資格要件を備えていない場合は社員となることはできない」とあり、前者(出資持分)は相続の対象となるものの、後者(社員たる地位)は、その地位の重要性から、相続のような包括承継の場合であってもその相続人が当然に社員になることにはならない旨が明示されております。

(2)キャピタルゲインの実現化の局面
前述のとおり、医療法人は非営利法人であることから、その事業活動から得られた利益=剰余金を配当することは禁じられています(医療法第 54 条)。更に、出資持分につきその有する金銭的価値が具体化される局面について医療法上には規定が置かれておらず、前述の「モデル定款」において2つの条項で触れられているに留まります。
第 9 条 社員資格を喪失した者は、その出資額に応じて払戻しを請求することができる。
第 34 条 本社団が解散した場合の残余財産は、払込出資額に応じて分配するものとする。
つまり、出資持分が「換金」されるのは、社員の退社時の「払戻し」と、法人が解散した場合の「残余財産の分配」の2つの局面に限られています。

更に、(1)の3つの結論と上記の定款規定とを重ね合せますと、次の結論を導き得ます。
①出資持分を有する医療法人の社員は、社員たる地位を有したまま出資持分の払戻しを請求することができない(退社を伴わない払戻しは、剰余金の配当に該当する)。
②医療法人の社員ではない出資持分の保有者は、医療法人に対しその払戻しを請求することができない(払戻しの請求ができる者は、前提資格として社員であることが要求される)。
③法人が存続する間は、医療法人の社員ではない出資持分保有者に係る出資持分が「換金」される局面はない。

なお、③については、当該者が出資持分を第三者に譲渡しその対価を得ることによって金銭化を図ることが可能です。法令或いは厚生労働省の通知等で出資持分の譲渡・贈与を制限する規定等はなく、また、出資持分の取得により当該取得者が(当然に)医療法人の社員となり法人運営に参画することもないので、会社等の営利法人がこれを取得することも不可能とはいえません(取得する営利法人において、上記のような性質を有する医療法人の出資持分を取得・保有すること自体につき、それが当該法人の目的の範囲内の行為であるといえるか否かという議論は残ります)。更に、当該譲渡は譲渡人と(医療法人ではない)譲受人との
間の契約に基づくものでその対価額も当事者間の合意により決定されますので、医療法人による出資持分の払戻しや清算医療法人の残余財産分配とは次元の異なる局面といえます。

本連載企画の次号におきましては、前号にてご案内申し上げました医療法人と各種法人間との制度比較を特集いたします。

本レポートをお読みいただいている皆様へ
年初に創刊いたしましたPLUS Reportをご愛読いただき、誠にありがとうございました。皆様どうぞ良いお年をお迎えください。

(文責 : パートナー司法書士・医療経営士2級 森田良彦)

本レポートは法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については各々固有・格別の事情・状況に応じた適切な助言を求めていただく必要がございます。また、本稿に記載の見解は執筆担当者の個人的な見解であり、当法人若しくは当グループ又は当法人のクライアントの見解ではありません。

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