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【PLUS Report 2016年8月号】連載『ヘルスケア~医療・介護法制シリーズ』 第3回 法人制度比較 ~ 改正医療法を踏まえながら(中編)

連載企画 『ヘルスケア~医療・介護法制シリーズ』

第3回 法人制度比較 ~ 改正医療法を踏まえながら(中編)

PLUS Report では昨年7月号から執筆者担当毎の連載企画をスタートさせ、司法書士・医療経営士(2級)森田良彦にて、医療・介護を中心としたヘルスケア分野の法制度に関するトピックスを担当しております。

今月号では、前回号に引き続き、医療法人とその他の法人制度の比較に関するお話をさせていただきます。今回は特に組織再編と称される手続(合併、分割、etc.)にスポットを当て、まず組織再編法制が最も発達・整備されている株式会社(会社法)を採り上げ、合併及び分割制度の趣旨・概要、各制度の特徴や相違点を、比較を通じて浮かび上がらせたいと思います。
医療法人の合併及び分割制度も、株式会社のそれらと趣旨・基本構造は共通しておりますので、はじめに株式会社のお話を差し上げた方がイメージしやすく、また会社法と医療法との手続上の相違点の把握も容易になるものと考えております。

※本号におきましても、前回号に引き続き、医療法人に関する記述についてはすべて改正法(平成 27 年法律第 74 号)に基づいております。また、財団である医療法人の数は社団と比較して極めて少数であること及び医療法人社団の大部分が持分を有しているという現状を踏まえ、本レポートでは出資持分を有する(経過措置型)医療法人を前提としてお話いたしますので、その旨ご了承ください。

PLUS Report では、本誌をより充実させ皆様に有益な情報を発信していくため、皆様のご意見・ご感想をお待ちしております。採り上げますテーマなどお気軽にご意見やご要望をお寄せ頂けましたら幸いです(PLUS Report 事務局 plus-report@plus-office.com)。

1.前提知識 ~ 組織再編制度の概要(会社法)

*組織再編制度 ~ 分割とは?合併とは?
まず会社法上の組織再編制度からお話を始めてまいりますが、組織再編制度の本質は何か?との問いに一言でお答えしますと、「法人が、既存の他法人又は新たに設立する法人に対し、当該法人の「○○(何か)」を引き継がせること」と定義づけることができます。

(1)引き継がせる「何か」とは?~「資産」・「持分」
その引き継がせる「○○(何か)」とは、当事会社の「資産」(=正・負を含めた権利義務)又は「持分」(=出資持分。株式会社の場合は株式)のいずれかです。近年M&Aという言葉をしばしば見聞しますが、M&Aは mergers(合併)and acquisitions(買収)の略称で、ある企業が他の企業を獲得・支配しようとする際、対象企業そのものを包摂してしまう手法
(merger = 合併)と、対象企業が所有する事業資産又はその持分を取得する手法(買収 =acquisition)のいずれかを採用することとなります(スキームによっては複数の手法を用いることもあります)。
別紙資料をご覧いただきますと、「1.資産(正・負を含めた権利義務)を承継させる手法」「2.(出資)持分を承継させる手法」及び3.としてその双方を承継させる手法の3つに分類しておりますが、「1.」及び「2.」が「買収」に該当し、「3.」が「合併」に当たります。

(2)「資産」を引き継がせる手法 = 事業譲渡・会社分割(吸収分割・新設分割)
「事業譲渡」とは、「事業資産=ある事業のために組織化され一体的に機能する人・物・ノ
ウハウ」を引き継がせる契約ですが、実体的には、その事業を構成する個々の資産・権利義務の譲渡又は引受けを行う個別の取引行為であり、これらを集約したものを「事業譲渡」と総称すると捉えていただければ結構です。換言しますと、これらの個々の取引行為を全体観察し、「ある事業のために~」譲り渡すことといえる水準に達したものが「事業譲渡」に当たるといえます。
「会社分割」は、いわば事業譲渡による個々の取引行為を「会社分割」というひとつの法的手続に集約化・一本化した「包括承継」(=組織再編)手続であり、契約(吸収分割契約)又は計画(新設分割計画)において承継対象とされた資産・権利義務が、所定の手続を履行することにより、(原則として)相手方の個別の同意を得ることなく、一括移転することがその特徴です。
なお、「吸収分割」は、既存の会社間において行われる資産・権利義務の包括承継契約である一方、「新設分割」は、いわば既存会社がその有する資産等を現物出資して新たに会社を設立する手続であり、効果=包括承継は同じですが、契約と新たな法人設立行為とでその法的な構成は異なります

(3)「(出資)持分」を引き継がせる手法 = 株式譲渡/株式交換・株式移転
「事業譲渡」が、会社の所有資産等の譲渡であるのに対し、「株式譲渡」は、その名のとおり(会社の資産等ではなく)対象会社の株式=出資持分を譲渡・譲り受けることにより当該株式会社のオーナーとなることを通じて、対象会社の資産等を引き継ぐ手法です。比ゆ的な表現となりますが、「事業譲渡」が法人という「器」の「中身」(資産等)を取引対象とする
のに対し、「株式譲渡」は、法人=「(中身=資産等が詰まった)器」そのものを取引対象とするものといえます。よって、契約の相手方も、事業譲渡であれば対象会社(法人)、株式譲渡であれば対象会社のオーナー(株主)と、採用する手法によって異なります。
「株式譲渡」は現株主を譲渡人として契約を締結しますので、その基本構造は個々の株主との相対・個別の契約となります。したがいまして、ある株式会社を株式譲渡により買収しようとしますと株主の数だけ交渉・契約をする必要があり、その数が 100 名であれば 100 の株式譲渡契約を締結しなければならず、そもそも、100 名すべての株主が当然に株式譲渡に応
じるという保証もありません。
「株式交換」は、契約(株式交換契約)により株式の一括移転を可能たらしめるものです。
A社(買収会社)がB社(買収対象会社)の株式全部を取得してB社を買収=100%子会社しようとするときに、買収会社と買収対象会社との間で株式交換契約を締結し、買収会社が買収対象会社の株主全員からその所有株式全部を取得するのと引換えに、その対価として、買収会社は買収対象会社の株主に対し、買収会社の株式又はその他の資産(金銭等)を交付し
ます。買収対象会社である B 社株主の立場からしますと、A 社・B 社間で交わされた株式交換契約に基づき、所有していた B 社株式が A 社株式等に「交換」されるかたちとなります。
株式交換契約は、契約当事者自体は買収の当事法人でありながら、買収会社(A社)から対価交付を受けるのは買収対象会社(B社)の株主ですので、「第三者のためにする契約」(民法第 537 条)としての側面を有します。
「株式移転」は「新設分割」と同様、その行為を通じて新たな法人(株式会社)を設立する手法であり、「株式移転」の場合は、(既存法人の「資産」ではなく)既存法人の株式全部を現物出資して新たに株式会社を設立し、既存法人の株主は、その対価として新設会社の株式の交付を受けます。換言しますと、自社株式の現物出資を通じて新たに自社の 100%親会社を設立するもので、いわゆるホールディングカンパニー(持ち株会社)を設立する際に採用される手法です。

(4)「資産」・「持分」の双方を引き継がせる手法 = 合併
「資産」及び「持分」(厳密には消滅法人の構成員=株主)の双方を包括的に承継させる手法が「合併」です(なお、「新設合併」は採用されることが稀ですので、「吸収合併」に絞ってお話を進めます。)。吸収合併では、存続法人は消滅法人の資産、負債、契約上の地位その他一切の権利義務のほか消滅法人の構成員(株主)も包括的に引継ぎ、消滅法人は吸収合併の効力の発生とともにこれら一切を存続法人へ引き継がせると同時に法人格を失います。
我々人間に例えると「相続」に当たるものと捉えていただければ結構です。

(5)結論 ~ 組織再編とは?
つたない図で大変恐縮ですが、別紙資料の3ページ目の下段「(組織再編のイメージ)」は事業譲渡vs株式譲渡、会社分割vs株式交換、吸収合併を図式化したものです。
楕円形が株式会社(法人)を表し、その中央の肌色が法人の有する資産を、直上の青い人型が株主(=当該株式会社のオーナー)を表します。
事業譲渡・会社分割は法人が有する資産を承継対象とした手法であり、株式譲渡・株式交換はオーナーシップ=株式を承継対象とするもので、その双方を引き継ぐ手法が吸収合併です。
なお、「?」マークの白い部分(会社資産を包み込んだ部分)は、株主から会社資産の運用を委ねられた役員(機関)や、その資産の運用ルール=定款を表します。実は、この「?」の部分は会社分割はおろか、吸収合併によってさえも引き継がれません。特に「吸収合併」は、消滅法人の法人格そのものを引き継ぐものと誤解されがちですが、例えば、消滅法人の役員は、合併により当然に存続法人の役員に就任することはなく、また、消滅法人の事業目的が存続法人の定款に置かれていない場合に、吸収合併により当然に追加される(存続法人の定款が変更される)こともありません。その他、消滅法人が許認可事業を営んでいた場合の各
種許可・認可も、組織再編により当然に承継・新設法人に引き継がれるものではなく、それぞれの根拠法令によりその取扱いが異なります。

以上を要約しますと、組織再編とは、

①資産を引き継ぐ手法 : 特定承継型 = 事業譲渡
: 包括承継型 = 会社分割(吸収分割・新設分割)
②持分を引き継ぐ手法 : 特定承継型 = 株式譲渡
: 包括承継型 = 株式交換・株式移転
③資産・持分の双方を引き継ぐ手法 : 合 併(吸収合併・新設合併)
の3つの手法と6つの手続に分類されます。

次号は本号の後編として、医療法人の合併・分割及び各手続の内容を中心にお話いたします。

(文責 : パートナー司法書士・医療経営士2級 森田良彦)

本レポートは法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については各々固有・格別の事情・状況に応じた適切な助言を求めていただく必要がございます。また、本稿に記載の見解は執筆担当者の個人的な見解であり、当法人若しくは当グループ又は当法人のクライアントの見解ではありません。

連載『ヘルスケア~医療・介護法制シリーズ』
※PDFはこちら。
第3回 法人制度比較 ~ 改正医療法を踏まえながら(中編)
【別紙】組織再編制度の比較(会社法)