PLUS ReportPLUS Report

【PLUS Report 2017年11月号】連載「ヘルスケア~医療・介護法制シリーズ」 *改正社会福祉法 〜社会福祉法⼈制度に焦点を当てて(後編)

連載企画 『ヘルスケア〜医療・介護法制シリーズ』

*改正社会福祉法〜社会福祉法⼈制度に焦点を当てて(後編)

PLUS Report では執筆者担当毎の連載企画をスタートさせ、司法書士・医療経営士(2級)森田良彦にて、医療・介護を中心としたヘルスケア分野の法制度に関するトピックスを担当しております。

今月号では、前号(5 月号)に引き続き、本年4月1日に全面施行されました改正社会福祉法の社会福祉法人にスポットを当て、(1)事業運営の透明性の向上 (2)財務規律の強化を中心にお話したいと思います。

PLUS Report では、本誌をより充実させ皆様に有益な情報を発信していくため、皆様のご意見・ご感想をお待ちしております。採り上げますテーマなどお気軽にご意見やご要望をお寄せ頂けましたら幸いです(PLUS Report 事務局 plus-report@plus-office.com)。

*事業運営の透明性の向上・財務規律の強化

1.改革の3つの視点
今般の社会福祉法人の制度改革の視点は、次の3つであることを前編でお話しました。
(1)公益性・非営利性の徹底
(2)国民に対する説明責任の履行
(3)地域社会への貢献

2.改革の中心となる3つの取組み
上記の3つを実現させるための具体的な施策として、(1)経営組織のガバナンスの強化 (2)事業運営の透明性の向上 (3)財務規律の強化 が図られました。前編において (1)経営組織のガバナンスの強化について触れましたので、本号ではその続編として (2)事業運営の透明性の向上 及び (3)財務規律の強化 についてお話してまいります。

(2) 事業運営の透明性の向上
<ポイント> ~ 財務諸表の公表等の法律による義務付け
本改正の趣旨は「社会福祉法人の高い公益性に照らし、公益財団法人以上の運営の透明性を確保すること」にあり、具体的には ①備置き・閲覧対象として定款、事業計画書及び役員報酬基準の追加 ②閲覧請求権者を利害関係人から国民一般に拡大 ③貸借対照表、収支計算書及び現況報告書(役員報酬総額、役員等関係者との取引内容を含む)を通知対象から更に公表対象としたうえで、新たに備置き・閲覧対象とされた定款及び役員報酬基準を更に公表対象に加え、(4)その公表方法を国民が情報入手をしやすいホームページを活用して行うことが義務付けられました。公益財団法人の公表対象が、財務諸表及び役員報酬基準に限られていることと比較してもその徹底ぶりが窺われます。

以上の変更内容を整理しますと次のとおりです。
① 定款・役員報酬基準 : 新たに備置き・閲覧対象 更に 公表対象
② 事業計画書 : 新たに備置き・閲覧対象
③ 貸借対照表・収支計算書・
現況報告書 : 通知対象から公表対象に変更

(3) 財務規律の強化
<ポイント> ~ 「内部留保」の明確化・社会福祉事業等への計画的な再投資
今年 2 月発行の全国紙において、関西地方に所在する社会福祉法人の私物化の様子が報じられ、元理事長及びその親族が運営費約 1 億 4000 万円を不正に使用していたことが明らかになりました。その例として、公用車と称して理事長の娘のために高級車を購入、勤務実態
のない親族に対する数千万円の給与の支払、社会福祉の書籍購入に仮装した物品の購入等、社会福祉法人の本質である公益性・非営利性から程遠い実態が詳らかにされました。
今般の改正により、役員報酬基準の作成及び公表、役員等関係者への特別の利益供与を禁止し適正且つ公正な支出管理の確保を図るとともに、①いわゆる「内部留保」の明確化 及び②社会福祉事業等への計画的な再投資 に関する規定が新設されました。

①「内部留保」の明確化
いわゆる「内部留保」を明らかにするため、社会福祉法人が保有する総財産から事業継続に必要な財産(控除対象財産)を控除したうえで、再投下対象財産(社会福祉充実財産。法律上は「社会福祉充実残額」)を算定することが規定されました。具体的には以下の算式によって求められます。
【活用可能な財産】-(【事業用不動産等】+【将来の建替費用等】+【運転資金】)= 【再投下対象財産】

・【活用可能な財産】 = 資産-負債-基本金-国庫補助等特別積立金
・【事業用不動産等】 = 社会福祉事業等に活用している不動産の帳簿価格
・【将来の建替費用等】= 施設の将来の建替及びそれまでの大規模修繕に係る費用等
・【運転資金】 = 年間支出の3月分

以上のように、貸借対照表等の財務諸表に基づき、すべての社会福祉法人が公平且つ簡素に算定することができるように考慮されています。

②社会福祉事業等への計画的な再投資
①の計算の結果「再投下対象財産」(社会福祉充実財産)がプラスとなった法人は「社会福祉充実計画」を策定し、原則5年間(最長 10 年間)で既存事業や新規事業に再投資=全額を再投下することが義務付けられます。

再投資の対象は次のとおり順位付けられています。
第1順位 : 社会福祉事業(職員の待遇改善、新たな人材の雇用、既存建物の建替等)
第2順位 : 地域公益事業(単身高齢者の見守り、包括的な相談支援、移動支援等)
第3順位 : 公益事業(介護人材の養成事業、ケアマネジメント事業、配食事業等)

なお、再投資先の事業は既存・新規のいずれでもよく、財源として社会福祉充実財産と控除対象財産を組み合わせて投資することも可能です。社会福祉充実財産は毎年見直しを行い、当該額の変動に応じて使途を変更することも許される等、柔軟な活用が図られています。
上記の計画を策定・所轄庁による承認を受けた場合等には、本計画をホームページに等において公表し、その投資実績についても毎年公表することが促されています。

(文責 : パートナー司法書士・医療経営士2級 森田良彦)

本レポートは法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については各々固有・格別の事情・状況に応じた適切な助言を求めていただく必要がございます。また、本稿に記載の見解は執筆担当者の個人的な見解であり、当法人若しくは当グループ又は当法人のクライアントの見解ではありません。

連載「ヘルスケア~医療・介護法制シリーズ」
※PDFはこちら。
改正社会福祉法~社会福祉法人制度に焦点を当てて(後編)