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【PLUS Report 2018年4月号】特別企画 会社法改正 「会社法制(企業統治等関係)の⾒直しに関する中間試案」から「株式交付」制度の創設
特別企画 会社法改正 「会社法制(企業統治等関係)の⾒直しに関する中間試案」から〜「株式交付」制度の創設
PLUS Report では執筆者担当毎の連載企画をスタートさせ、司法書士・医療経営士(2級)森田良彦にて、医療・介護を中心としたヘルスケア分野の法制度に関するトピックスを担当しておりますが、今月号では特別企画として、今年 2 月 28 日から 4 月 13 日までの間パブリックコメント手続に付されていました「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する中間試案」にスポットを当て、特にM&Aの実務に大きく影響を与えることが想定される新制度(「株式交付」)の概要をお話したいと思います。
PLUS Report では、本誌をより充実させ皆様に有益な情報を発信していくため、皆様のご意見・ご感想をお待ちしております。採り上げますテーマなどお気軽にご意見やご要望をお寄せ頂けましたら幸いです(PLUS Report 事務局 plus-report@plus-office.com)。
1.「株式交付」制度創設の背景・趣旨
-株式を対価とする企業買収におけるより円滑な子会社化の実現-
(1)既存制度下における限界
株式会社(以下「買収会社」)が他の株式会社(以下「対象会社」)を買収する際、取得する対象会社株式の対価として金銭に代え買収会社の株式を交付するニーズが存在するところ、現行制度下では、①株式交換を用いる方法 ②買収会社において募集株式の発行等(会社法
第 199 条~)を行う方法 の2つが考えられます。
①の株式交換では、完全親会社となる買収会社が完全子会社となる対象会社の株式の全部を取得することとなり、完全子会社化を企図しない場合には採用できないという制約が働き、
②の募集株式の発行等では、出資される財産が金銭以外(=対象会社の株式)であることから現物出資に関する規制の適用を受け、
1) 買収会社において原則として検査役の調査(同第 207 条)要し、
2) また、引受人となる対象会社の株主及び買収会社の取締役等が財産価額填補責任(同第 212 条・213 条)を負うリスクがある
ことから、買収会社の株式によることを断念しもっぱら金銭対価に依らざるを得ない状況が指摘されています。
(2)「株式交付」の創設
(1)で指摘された問題点に対し、
①株式交換の場合とそうでない場合とにおいて規律に大きな違いを設ける必要はない
②株式交換でない場合においても株式交換の場合と同様の規律の適用があるものとして、株式会社が株式を対価とする買収をより円滑に行うことができるような見直しをすべき
との意見を踏まえ、募集株式の発行等によることなく、すなわち、(1)②で指摘された現物出資に関する規制を受けることなく、買収会社の株式を対価とした子会社化の実現を図るために「株式交付」制度を新たに設けるものとされています。
2.「株式交付」の性質・概要
(1)「部分的な株式交換」
本中間試案の「補足説明」において、「株式交付」制度が「部分的な株式交換」と説明されているとおり、その性格は株式交換や合併、会社分割といったいわゆる「組織再編」と称される組織法上の行為と位置付けられています。したがって「株式交付」を行う場合には、株式交換と同様に買収会社において株主総会の特別決議を要し、「株式交付」に反対の買収会社の株主は、買収会社に対して株式買取請求権を行使することができる等とされています。
(2)株式交換との相違点
上述のとおり「株式交付」は「部分的な株式交換」と位置付けられているものの、次の点において株式交換と異なります。
①買収会社と対象会社との間に契約関係(株式交換契約に相当するもの)がない
②買収会社は対象会社の株式を法律上当然に取得するものではなく、買収会社と対象会社の株式を有する株主との間の合意に基づき対象会社の株式を譲り受けるものとする
∴対象会社の株式が譲渡制限株式である場合には対象会社の承認を要する
これらは、「株式交付」は株式交換と異なり、必ずしも対象会社の株式のすべてを取得するものではないことによるものと説明されています。
(3)「株式交付」の主体・利用局面
・買収会社は株式会社に限られ、対象会社も株式会社及びこれと同種の外国会社とされ持分会社は対象外とされています。
・「株式交付」の利用局面については、他の株式会社を新たに子会社(会社法施行規則第 3条第 3 項第 1 号)にしようとする場合、つまり、今まで子会社でなかった対象会社を、新たに買収会社の子会社とする場合に限定するものとされています。
3.「株式交付」の法務⼿続
(1)基本構造
・2.(1)にてお話しましたとおり「株式交付」はいわゆる「組織再編行為」として位置づけられていますので、①株主総会の特別決議による承認(原則) ②情報公開・アクセスのための事前開示・事後開示 ③株主への通知・反対株主の株式買取請求権 ④買収会社株式以外の対価を伴う場合の債権者保護手続等は、株式交換の場合と同様です。
・なお、2.(2)のとおり、対象会社は「株式交付」の直接の当事者とはならないため、もっぱら買収会社側の手続が規定されるかたちとなります。
(2)手続の概要
凡そ次のプロセスを経るものと思われます。
①「株式交付計画」の作成
・交付する買収会社の株式等の対価やその割当てに関する事項、増加する資本金等が中心事項となります。
※ 交付する買収会社の株式の数は、対象会社を子会社とするために必要となる数をその下限とするよう定めなければなりません。
②対象会社の株主で当該株式の譲渡しの申込をしようとする者への通知及び割当ての決定
③「株式交付計画」等の備置き(事前開示)
④買収会社の株主に対する通知等
⑤(1)④の債権者保護手続(買収会社の株式以外の対価を伴う場合)
⑥株主総会の特別決議による承認(いわゆる簡易組織再編の場合を除く)
⑦効力発生日の到来(株式交付計画において定める)
⑧事後開示(買収会社のみ。対象会社は株式交付の直接の当事者ではないため)
・なお、②の申込みがあった株式の総数が株式交付計画で定めた下限に達しない場合には手続は終了するものとされています。
・また、⑦の効力発生日において給付を受けた株式の総数が株式交付計画で定めた下限に達しない場合には、対象会社の株主でその譲渡に応じた者は買収会社の株主にはならないものとされ、この場合、買収会社は、給付を受けた対象会社の株式を当該譲渡人に返還しなければならないものとされています。
(文責 : パートナー司法書士・医療経営士2級 森田良彦)
本レポートは法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については各々固有・格別の事情・状況に応じた適切な助言を求めていただく必要がございます。また、本稿に記載の見解は執筆担当者の個人的な見解であり、当法人若しくは当グループ又は当法人のクライアントの見解ではありません。特別企画 会社法改正
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