PLUS Report~民事信託編~PLUS Report
【PLUS Report ~民事信託編~第9回】受託者について正しく知ろう!Part2
『新しい相続・財産管理の方法~民事信託~』
第9回 受託者について正しく知ろう!Part2
前号に続き,受託者についてご説明をいたします。
受託者を誰にするか
家族信託を考えるに当たり,受託者を誰にするかは重要なポイントです。委託者との信頼関係があることは当然ながら,受託者と受益者,そしてその家族との関係,信託の目的や信託財産の内容によっては,受託者が信託事務を適切に行なえるかどうかなど,総合的に判断することが必要でしょう。
ただ,近くに子や家族などの適任者がいない場合も少なくありません。その場合,相談された弁護士や司法書士に受託者になって欲しいという要望もあるかと思います。しかし,家族信託は信託業法の資格制限規定がありますので,業として受託者となるには,資格が必要です。もし適格者がいない場合は,信託会社や信託銀行に財産管理を依頼することになるでしょう。
受益者の任意後見人は受託者になれるのか
任意後見人と受託者を兼ねることができるかという問題があります。この点に関しては見解の分かれるところですが,任意後見人と受託者の関係は多くの場合,利益相反の関係が生じると言えますので,任意後見人の代理権の範囲が信託財産を除く身上監護等を主に分掌するものであれば,就任は可能であるという見解が有力です。
一般の法人は受託者になれるか
受託者については,法人の場合,その法人の定款の目的の範囲であれば受託者になれますが,ここでも信託業法の問題をクリアする必要があります。信託を業として受託する場合は,資格のある株式会社でなければならないとされています。ここでいう「業」とは,「営利の目的」をもって「反復継続」して行うことが要件とされています。営利を目的としない,一回限りの民事信託の受託という目的の場合は反復継続性があるとは考えずに,信託業の対象とはしていないという見解も多く,一般社団法人や株式会社を設立して,唯一委託者の財産だけを管理するという法人を受託者とする信託を利用している例も少なくありません。
受託者を複数にできるか
受託者を複数とする民事信託の設定は可能です。受託者複数の信託においては,信託事務にあたっての意思決定をいかにするかが問題となります。基本的に,信託の事務処理についての原則は受託者の過半数をもってするとされています。この場合でも,保存行為については各受託者が単独でこれを行うことができます。しかし,受託者が複数になることは,受託者双方に信頼関係がない場合や意見が合わない場合に,信託が機能しない(停滞する)ことも考えられますので,受託者を複数とする信託の設定は慎重に検討するべきでしょう。
受託者は第三者委託が可能か
信託制度は,受託者に対する個人的な信頼を基礎とする財産管理制度ですが,現代社会は分業化・専門化が進んでおり,全ての事務処理を1 人で行うのは現実的ではありません。信託法では第三者に信託事務処理を委託することを大幅に認め,受託者は信託事務の処理を第三者に委託することができ,また,信託契約で当該委託する相手を指名することもできるようになっています。
受託者の死亡により任務が終了した場合
受託者の任務終了については前号でお伝えいたしましたが,個人が受託者の場合,予期せぬ出来事により,受託者が受益者より先に死亡するということも考えられます。また,事故や病気により,受託者が任務を遂行できないことも考えられます。このように受託者の任務が途中で終了した場合は,新たな受託者を選任する必要があります。信託契約書に新受託者に関する定めがあるときは,その定めに従って受託者を選任します。もし,契約書に新受託者となるべき者として指定された者が信託の引受をせず,もしくは受託することができないときは,委託者及び受益者はその合意により,新受託者を選任することができます。民事信託の場合は,長期にわたることが考えられるので,あらかじめ契約書には,最初の受託者だけでなく,万が一の場合に備えた予備の受託者を定めておくことが望ましいでしょう。
(文責 : 司法書士 重信吉孝)
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