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【PLUS Report ~民事信託編~第8回】受託者について正しく知ろう!

『新しい相続・財産管理の方法~民事信託~』

第8回 受託者について正しく知ろう!

民事信託を考えるにあたり、受託者はもっとも重要な役割を果たす人物です。今回は、受託者についてご説明させて頂きます。

受託者の地位と権限について

受託者については、信託法2条5項に「受託者とは、信託行為の定めに従い、信託財産に属する財産の管理又は処分及びその他の信託の目的の達成のために必要な行為をすべき義務を負う者をいう」と定義づけています。個人だけでなく法人も、法人の目的の範囲内であれば受託者になることができます。ただし、業として受託者となるには、資格が必要です。

受託者は、信託財産に属する財産の管理又は処分及びその他の信託の目的の達成のために必要な行為をする権限を有していますが、この権限を制限することができます。
例えば、委託者所有の不動産を賃貸に出す事はできるが、売却することはできないというように、あらかじめ信託をスタートさせる前に信託契約等に記載することで制限をかけることができ、後に改めて信託の内容を変更して制限をかけることもできます。

受託者の選任について

未成年者、成年被後見人、被保佐人は受託者不適格者とされています(信託法7条)。また、信託管理人、信託監督人、受益者代理人は、受託者を兼ねることはできません(信託法124条2号、137条、144条)。また、信託は信託業法の規制を受けるため、だれでも自由に受託者になれるわけではありません。信託の引き受けを業(営業)として行うものは免許を受けた信託会社でなければなりません(※営業とは、営利の目的を持って、反復継続的に他人から財産の移転その他財産の処分を受け、一定の目的に従い財産の管理または処分を行うことを引き受けること)。

従って受託者を選任する場合は、それ以外の適格者を選任しなければなりませんが、一般的に委託者の子、兄弟姉妹、甥姪など近い親族が選任されることが多く、こちらは、信託財産の内容や、受託者の立場、委託者や受益者との家族関係など総合的に判断して選任することが重要です。

受託者が受益者を兼ねる事はできます。ただしその場合は、受益者複数のうち 1 人が受託者兼受益者のような場合に限られ、受託者と受益者の全部を固有財産として有する状態が1年間継続したときは、信託は終了すると定められていますので注意が必要です。(例えば、受託者 A・受益者 AB とした場合、信託は継続することができますが、後に受益者の 1 人の B が死亡し、受託者 A・受益者A の様になった場合、この状態が1年間継続すると信託は終了してしまいます。)

受託者の責任について

信託法は、受託者がその任務を怠り、信託財産に損失が生じた場合は、受益者は受託者に対し損失のてん補をすることができ、信託財産に変更が生じた場合、受託者に対し、原状回復の措置を請求することができると規定しています(信託法40条1項)。ただし、原状の回復が著しく困難な場合や多額の費用がかかる場合、受託者に原状回復をさせるのが不相当の場合など特別な事由がある場合は請求はできないとされています。この受託者の損失てん補責任については、受益者が免除することができるとされていますが、受益者が複数の場合は特例があります。

受益者による受託者の行為の差止め請求

受託者が法令若しくは信託行為の定めに違反する行為をし、または行為をするおそれがある場合において、当該行為によって信託財産に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、受益者は、当該受託者に対し、当該行為をやめることを請求することができます(信託法44条1項)。
例えば、委託者の不動産を賃貸管理する旨(売却する旨の権限は無い)を目的とした不動産を、受託者がそれに反して売却しようとする場合に、この売却をやめるように請求することができます。

受託者の権限違反行為の取り消しについて

受託者が権限に属しない行為をした場合に、当該行為の相手方が、当該行為の当時、当該行為が信託財産のためにされたものであることを知っていたこと、当該行為が受託者の権限に属しないことを知っていたこと、または知らなかったことにつき重大な過失があったとき、受益者は当該行為を取り消すことができます(信託法27条1項)。この取消権は、受益者が取消しの原因があることを知った時から3か月間行使しないときは、時効によって消滅し、行為の時から1年を経過したときも時効にかかるとされています(信託法27条4項)。

受託者の義務について

①信託事務遂行義務、②善管注意義務、③忠実義務、④公平義務、⑤分別管理義務、⑥帳簿作成義務、
⑦情報提供義務など、受託者には様々な義務が課せられています。

利益相反行為の禁止

受託者の忠実義務とは、受託者はもっぱら受益者の利益のためにのみ行動すべきであるという原則のことです。この忠実義務に求められる代表的なものが【利益相反行為の禁止】です。
例えば、信託された不動産を受託者が自分の財産としたり、受託者の個人的な債務を担保するために信託された不動産に抵当権を設定する行為は利益相反行為となります。このような利益相反行為に該当する場合でも、受託者が受益者の承認を得たとき、信託行為にその行為を許容する旨の定めがある場合、信託の目的の達成のために合理的に必要と認められる場合であって正当な理由がある場合は、利益相反行為が許容されます(信託法31条)。

受託者の任務終了

受託者の任務終了の事由としては、次のとおりです(信託法56条1項)。
①受託者の死亡、②受託者が後見開始または保佐開始の審判を受けたこと、③受託者(破産手続開始の決定により解散するものを除く)が破産手続開始の決定を受けたこと、④受託者である法人が合併以外の理由により解散したこと、⑤受託者の辞任、⑥受託者の解任、⑦信託行為において定めた事由。ただし、③に掲げる破産手続開始の決定による場合にあっては、信託行為に別段の定めにより受託者の任務が終了しないときは、受託者の職務は、破産者が行うことになる。(信託法56条1項ただし書き、4項)

(文責 : 司法書士 重信吉孝)

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