PLUS Report~民事信託編~PLUS Report

【PLUS Report ~民事信託編~第7回】障がいのある子へ、上手に資産を承継させるケース

『新しい相続・財産管理の方法~民事信託~』
第7回 障がいのある子へ、上手に資産を承継させるケース

相続人がいない場合の財産の承継先

亡くなった方の財産はその相続人に承継されますが、もし本人に相続人がいない場合、財産は国のものになります。相続人がいない子に上手に資産を承継させたい場合は、信託を活用する方法があります。

例として「自分が死んだら、財産を障がいのある子に承継させる。そして子が死んだらその残った財産はお世話になった親戚や社会福祉法人に寄付する」という内容の信託を組む事によって、遺言を書けない子の財産の承継先を指定することができます。民法上無効とされている、いわゆる『後継ぎ遺贈』の遺言のような方法を信託を活用すると、国のものにならずに、親の想いを実現させることができるようになります。

【相談事例】相談者Aさん(85歳)
『私Aは、賃貸アパートを所有しています。最近健康がどうもすぐれず、物忘れも出てくるようになりました。

これまで賃貸アパートの管理は長男B(50歳)に手伝ってもらっているので安心ですが、心配なのは長女のC(47歳)です。先天的に知的障がいがあり、施設で過ごしています。

私Aにもしもの事があった際に、賃貸アパートの管理等諸々や長女Cの今後の生活が心配ないようにするにはどうすれば良いでしょうか。

長男Bは、長女Cの面倒を自分が責任を持って見てくれると言ってます。

また、司法書士法人Pには昔から世話になっており、今後のこともお願いしたいと思っています。

最終的には長男BとBの嫁、そして孫に資産が行くようにしてくれればよいと考えています。』


【解決策】
Aさんと、長男Bとの間で民事信託の契約を締結します。その内容は、委託者がAさん、受託者が長男Bとなり、賃貸アパート、現金1000万円を長男Bに託します。当初受益者をAさん、Aさんが亡くなった後の受益者を長女Cにすることで、Aさん死亡後はアパートの家賃は長女Cさんのものになり、長女Cの生活費等の財産の給付を長男Bが行います。Aさんと長女Cが亡くなったら信託が終了するように定め、長男Bがアパートを売却し、売買代金をお世話になった社会福祉法人に1000万円を寄付し、残りのすべての財産を長男Bに帰属させるようにします。長男Bが最後まで義務を果たしていることを監督するために、司法書士法人Pを信託監督人として指名します。

【今回の信託スキーム】
・委託者:A
・受託者:長男B
・受益者:当初受益者A、第二受益者長女C
・信託財産:賃貸アパート、現金
・信託期間:無期限
・信託終了事由:Aおよび長女Cの死亡
・残余財産の帰属先指定:長男B
・信託監督人:司法書士法人P(任意)

信託を利用するメリット
・Aさんが亡くなった後、財産を長女Cが実質承継することができる。また、遺言をする能力がないがC使い切れなかった財産は、Aさんの希望通りに長男Bとお世話になった社会福祉法人へ承継することができる。
・Aさんが認知症や病気になっても、長男Bが受託者の権限で不動産の修繕・賃貸、売買契約などの締結をすることができる。

(文責 : 司法書士 重信吉孝)

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『新しい相続・財産管理の方法~民事信託~』
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