PLUS Report~民事信託編~PLUS Report
【PLUS Report ~民事信託編~第6回】子どもがいないので、妻が亡くなった後の財産を自分の血族に残したいケース
『新しい相続・財産管理の方法~民事信託~』
第6回 子どもがいないので、妻が亡くなった後の財産を自分の血族に残したいケース
法定相続人の確認
法定相続人には順位があります。まずは、Aさんの法定相続人の確認をしましょう。もし、Aさんに子どもがいる場合、Aさんの子が法定相続人となります(第1順位)。また、配偶者は常に法定相続人となりますので、この場合、子と配偶者が法定相続人となります。もし、子が先に亡くなっている場合は、その子(Aさんの孫にあたる)が第1順位の法定相続人となります。
次に、Aさんに子どもがいない場合です。その場合、Aさんの親が法定相続人となります(第2順位)。そしてこの場合も配偶者は法定相続人となります。
最後にAさんの両親及び祖父母も既に亡くなっている場合、Aさんの兄弟姉妹が法定相続人となります(第3順位)。そしてこの場合も、配偶者は法定相続人となります。
民事信託でしかできない資産の承継方法
「自分が死んだら、全財産を妻に相続させる。そして妻が死んだらその残った財産は甥に承継させる」という、いわゆる『後継ぎ遺贈』の遺言は、民法上無効とされています。もし遺言の制度だけで妻から甥へと資産を承継させたいなら、妻に遺言を書いてもらうしかありませんが、妻が途中で気が変わって撤回する事は自由です。しかし、民事信託の制度を活用すれば、後継ぎ遺贈のような二次相続以降の資産の承継先を指定する事ができます。これは「所有権」という自分のものを自由に使用・収益・処分できるという権利が、信託をすることにより信託受益権という「債権」に形を変えるために可能となるのです。
【相談事例】
Aさん(74歳)は親の代から承継された立派な自宅と、その敷地内にあるアパートを所有しており、その不動産収入で生活をしています。妻B(70歳)との間に子がいないので、Aさんの法定相続人は妻Bと弟Cとなります。Aさんは、自分の死亡後も妻Bが引き続き自宅に住み、家賃収入で生活ができるように、財産を妻Bに承継させたいと考えています。しかし、次に妻Bが亡くなると、父から受け継いだ財産が妻B側の親族に渡ってしまうのは好ましく思っていません。Aさんは、妻Bが亡くなった後は、財産をA家の血族である弟Cの家族に残すことを希望しています。
【解決策】
Aさんは、甥Dとの間で民事信託の契約を締結します。その内容は、委託者がAさん、受託者が甥Dさんとなり、自宅とアパートを甥Dに託します。当初受益者をAさん、Aさんが亡くなった後の受益者を妻Bにし、妻Bの老後の生活費等の財産の給付を甥Dが行います。妻Bが亡くなったら信託が終了するように定め、自宅とアパートの帰属先を甥Dに指定します。将来的・潜在的に妻Bと甥Dは利益相反関係となるので、司法書士が財産管理や給付を適正になされているかの指導・確認を行います。(妻Bの財産の消費が少ないと、将来甥Dに遺産が多く入る事になるため)
【今回の信託スキーム】
・委託者:A
・受託者:甥D
・受益者:当初受益者A、第二受益者妻B
・信託財産:自宅、賃貸アパート
・信託期間:無期限
・信託終了事由:Aおよび妻Bの死亡
・残余財産の帰属先指定:甥D
・信託監督人:司法書士(任意)
信託を利用するメリット
・Aさんが亡くなった後、財産を妻Bが実質承継することができる。また、妻Bが遺言を残さずとも最終的にAさんの財産が甥Dへ承継できる。
・Aさん・妻Bが認知症になっても、甥Dが受託者の権限で不動産の修繕・賃貸契約などの締結をすることができる。
(文責 : 司法書士 重信吉孝)
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