PLUS Report~民事信託編~PLUS Report

【PLUS Report ~民事信託編~第3回】民事信託で、空き家対策をしよう! Part1

『新しい相続・財産管理の方法~民事信託~』

第3回 民事信託で、空き家対策をしよう! Part1

総務省統計局の調査によると、平成5年の空き家数が448万戸、空家率が9.8%であったのに対し、平成25年の空き家数は820万戸、空家率は13.5%となり、年々増加傾向にあります。
実家が空き家になってしまう要因はいくつか考えられますが、そのひとつとして、子ども達が独立し、それぞれが自宅を建てたり、マンションを購入したりするなどして自分の持ち家を持つことで、将来実家に戻って住みたいと考える家庭が減少傾向にあることも一つの原因でしょう。
その他にも、親がアルツハイマー病や脳梗塞等が原因で認知症になってしまう事が、実家が空き家になってしまう原因にもなります。

実家が空き家になってしまう原因 ~親が認知症になった~
親がアルツハイマー病や脳梗塞等が原因で認知症になり、介護施設へ入居することになると、思っていた以上に介護費用がかかることがあります。もし子ども達が実家を売却して介護費用に充てたいと考えても、不動産の名義人である親は契約をする理解力がないので、このままでは売買契約を結ぶことはできません。もちろん、子ども達が親に代わって契約をすることもできません。
このような場合は、親に代わって不動産の売買を契約する人を家庭裁判所から選任してもらう必要があります。親に代わって不動産の契約をしたり、また、親の財産の管理をする人のことを「成年後見人」といい、主にご家族や弁護士、司法書士が選任されることが多いです。
しかし、成年後見人が親の自宅を売買する場合は家庭裁判所の許可が必要であり、不動産の売却をするについての合理的な理由が無いと、なかなか許可がおりません。
不動産の名義人である親が認知症になってしまうと、不動産の売却が現実的に難しくなり、空き家となってしまう事態が起こるのです。

相続人中に認知症や知的障がいをもつ人がいる
また、不動産の名義人の配偶者が認知症の場合も、注意が必要です。
両親の一方の死亡により、一人で住むには広いので実家から親を呼び寄せ、住まなくなった実家を売却する、という話はよくあります。その場合は売却する前提として、一旦、不動産を相続人名義に変更する手続きをとり、相続人全員が売主として契約をしなければならないため、上記と同じように、認知症の親に代わって契約をするための成年後見人を選任する必要があります。
その他にも、遺産分割協議を行うなかで相続人中に重度の認知症や知的障がいを持つ人がいると、その協議も成年後見人が本人に代わって行う必要があります。

民事信託を使った空き家対策
空き家にならないためには、親が認知症になる前に、何らかの対策を取る必要があります。今回は民事信託を使った空き家対策(親の認知症対策)をご紹介します。

【相談事例】
将来、親を呼び寄せたり、介護施設に入所させたりするために、実家を売却して諸費用に充てたいが、親が認知症になると、売却が難しくなってしまうのが心配。

【相談者】Aさん(50歳)福岡市在住
Aさんの父Bさん(80歳)は福岡県にある実家でひとり暮らしをしている(母は既に他界)。
Bさんはひとり暮らしの生活が大変なようなので、近いうちにBさんを福岡市に呼び寄せて一緒に暮らすか、または介護施設に入所させて、ゆっくりさせてあげようと考えている。
今の実家は他に住む予定の人はいないので、売却してBさんの施設への入居費や介護費用に充てたいと考えているが、すぐに売れる保証は無い。
もしBさんが認知症や重い病気になってしまうと売却することができなくなってしまうので、何か対策はないだろうかと考えている。

【今回の信託スキーム】
・委託者兼受益者をBさん、受託者をAさんとする。信託財産を実家とする。
・信託契約で「Aさんが実家を売却できる」と定めておく。
・もしBさんが亡くなっても、その後Aさんが実家を売却し、その売却代金を相続人に分けるように定めることができるようにする。

信託を利用するメリット

・Bさんが委託者兼受益者なので、信託設定時の税金は登録免許税のみ。不動産取得税も譲渡所得税も発生しない。
・Bさんが認知症になっても、Aさんが受託者の権限で不動産を売却することができる。
・信託財産の売却はBさんに対する課税となるので、居住用不動産の売却として、特別控除の特例が使える。
・不動産を売却した後の売買代金はそのまま信託財産とし、AさんがBさんのために使用する事ができる。
・Bさんの死亡後の売却代金の承継先を、あらかじめ定めておくことができる(遺言の代わり)。

最後に
認知症による問題は誰しもが経験する事ではないため、一般の方は認知症になったあとどのような問題が起こるかを具体的に把握する事ができません。認知症になると、銀行窓口での預金の払い出しや定期預金の解約も難しくなるので、介護費用を子が一時的に立て替えるケースもよくあるそうです。仮に親と子が財産の使い道について事前に話合いができていたとしても、民事信託をするなどの対策をとっていなければければ、思うような結果が得られなくなります。このようなことにならない為にも、一度専門家にご相談されることをお勧めいたします。次回は「民事信託で、空き家対策をしよう!Part2」と題して、不動産の共有が原因で起こる空き家問題の対策についてお話致します。

(文責 : 司法書士 重信吉孝)

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