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【PLUS Report ~民事信託編~第2回】民事信託は遺言の代わりにもなる?

『新しい相続・財産管理の方法~民事信託~』

第2回 民事信託は遺言の代わりにもなる?

なぜ民事信託で遺言の制度のような効果が得られるのか、民事信託の基本パターン図を使ってご説明します。
贈与税に注意
民事信託では、当初委託者と受益者が同一でスタートすることが多いです。なぜなら、委託者と受益者が別人だと、委託者から受益者に贈与があったとみなされ、受益者に贈与税が課せられてしまうからです。よって、今回は、委託者=受益者、つまり、『この財産を私のために使ってね』という内容で、委託者から受託者に信託を設定します。

この場合、受託者 B が運用した財産から得られる利益は委託者でもあり受益者でもある A が受け取ることになります。

二次受益者を定めておけば、遺言と同じような効果に!
委託者自身を自分が生きている間の受益者とし、自分が亡くなったあとを自分の子や配偶者、その他の人を次の受益者と信託契約で定めることによって、委託者である本人が亡くなったあとにおける財産の分配方法を決めておくことができます。

このような遺言と同様の効果を得るために設定された信託契約の仕組みのことを『遺言代用信託契約』と呼んでいます。もちろん、遺言と同様に委託者自身が亡くなるまでに、委託者は受益者となる人を変更することもできます。

遺言では実現不可能な効果が民事信託では可能!
遺言は自分の財産を誰に承継させるかを生前に指定することができますが、『自分が死亡した後は、財産を子 X に承継させ、将来 X が死亡した後は Y に承継させる』というような遺言はできないとされています。つまり、遺言でできる財産の承継先は一代までであり、一度財産が承継された後の財産の使い道は原則その人の自由なので、『〜将来X が死亡した後は Y に承継させる。』の部分は無効となります。

例えば、先祖代々直系血族に継がれている不動産を子 X から孫 Y へと承継させたいという本人の想いは、子 X の気持ち次第ということになります。

先祖代々続く不動産を 夫 ⇒ 妻 ⇒ 甥,姪へ承継させる
子がいない夫婦の場合はどうでしょう。

もし相続対策をしなかった場合、自分が亡くなったあとの財産は法定相続どおり配偶者と兄弟姉妹に承継されます。もちろん自分が亡くなったあとも配偶者に安心して自宅に住んでもらうためには、遺言を残すなどの対策は必要でしょう。自宅や財産は妻が相続するという遺言を残すことが多いのではないでしょうか。

しかし、配偶者に承継された財産は、その後どうなるでしょうか。もし配偶者が遺言を残していなければ配偶者の死亡後の財産は、配偶者の父母もしくは配偶者の兄弟姉妹に承継されることになるのです。

もしその財産が先祖代々承継されてきた不動産なら、姻族へ財産が承継されることに抵抗があるかもしれません。また、配偶者に父母や兄弟姉妹など法定相続人がいなければ財産は国庫に帰属されることになります。

このように、遺言では一次相続、二次相続と将来の財産の承継先まで指定するができません。

しかし民事信託ではこのような一次相続、二次相続と財産の承継先を指定することが可能です。

つまり、『当初受益者が死亡したあと、受益者となる権利が二次受益者に移り、二次受益者が死亡した時は、三次受益者に移転する』という内容の信託契約は有効なのです。このような信託契約のことを『後継遺贈型(受益者連続)信託』と呼んでいます。

このような機能は、実務的には、子がいない場合、障がいを持つ子がいる場合、前婚の子と再婚の配偶者がいる場合などに活用されます。

例えば、前婚の子と再婚の配偶者がいる場合に、二次受益者として再婚の配偶者を指定し、配偶者に自宅不動産に住まわせ、配偶者が死後したあとに三次受益者である前婚の子に財産を承継させるというものです。

また、子がいない夫婦の場合、当初受益者を本人、二次受益者を配偶者、三次受益者を兄弟の子(甥姪)とすることで、財産を血族へ承継させることができます。

障がいをもつ子がいる場合は、二次受益者としてその子を指定し、他の親族や面倒を見てくれた人を三次受益者とするという使い方があります。

後継遺贈型(受益者連続)信託は30年が目安
このような後継遺贈型(受益者連続)信託は、一生涯続くわけではなく、信託法では、信託がなされたときから30年を経過した時点以降に新たに受益者になった者が死亡するまで、またはその受益権が消滅するまで信託が継続するとして期限を設けています。(信託法91条)

例えば、一次受益者を A、二次受益者を X、三次受益者を Y という信託を設定したとしましょう。Aが亡くなり、受益者が X である時点で信託を設定してから30年が経過した場合は、次の受益者 Yが亡くなるまで信託が継続することになります。

(文責 : 司法書士 重信吉孝)

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