PLUS ReportPLUS Report

【PLUS Report 2018年10月号】連載 『会社の登記と司法書士』 第8回 種類株式の内容とポイント ~「拒否権」「取得条項」編~

連載 『会社の登記と司法書士』

第8回 種類株式の内容とポイント~「拒否権」「取得条項」編~

『会社の登記と司法書士』(執筆担当:司法書士 丸山主税)の第8回は、引き続き種類株式の類型として、「拒否権付き種類株式」(黄金株とも呼ばれます)及び「取得条項付き種類株式」について、その内容を合わせて簡単にご紹介させていただきます。

1.「拒否権付き種類株式」の概要

株主平等原則のひとつである1株1議決権の例外として、前回「議決権制限株式」についてご紹介させていただきましたが、種類株式の内容のひとつである「拒否権付き」とは、その名のとおり 通常の株主総会(または取締役会)のほかに当該種類株主総会の決議を要するというものです。
拒否権のある種類株式を1株でも持っていれば、多数決の原理を超越して、会社の経営権を実質的に支配できますので、種類株式の内容の中でもとくに強力な効力を持つといえるでしょう。
創業者自身や信頼度の高い株主に持たせることで、株式の保有比率に関わりなく一定の経営権を掌握し続けたいといった段階的な事業承継や買収防衛策などに活用されます。

2.「拒否権」の対象として定める内容

拒否権の対象となり得るのは、株主総会または取締役会(取締役会非設置の場合は、取締役の過半数の決定事項については対象となりません。)における決議事項の全部または一部です。
これは決議された事項に対する「決裁」のようなもので、そもそも決議が成立しなかった場合は、この種類株式の出番はないことになります。当然ながら、否決された決議事項を成立させるということはできません。
拒否権の対象を定めるにあたっては、実際の経緯や会社の実情に合わせて、また他の株主との関係を踏まえ、明確かつ効果的な内容となるよう、重要な決議事項に的を絞ることが望ましいといえます。また、拒否権の発動要件を一定の条件下に限定することも可能です。
とくに重要な決議事項の例としては、以下のようなものが考えられます。
□ 一定額の財産処分や借入れ
□ 事業譲渡・譲受け
□ 役員の選任/解任
□ 定款の変更
□ 組織再編行為
□ 剰余金の配当
株主総会や取締役会の決議事項の全てを対象としたり、比較的広範囲な対象とする場合には、拒否権の強力な効果ゆえ、ほかの株主の権利を不当に制限しすぎないよう十分検討が必要です。

3.将来的なリスクの可能性

拒否権付き種類株式は1株でも効果を発揮しますので、保有する株主自身の属性や状況に大きく影響を受けるものといえます。
仮に相続が発生した場合、何の手当てもなければ、各相続人が拒否権のついた種類株式をそのまま承継することになります。相続関係が複雑な場合もありますし、当該会社との関係が希薄で非協力的な相続人がいれば、適切な会社運営に支障をきたす恐れもあるでしょう。個別に株式を買い取ろうとしても、交渉がスムーズにいかないケースも十分考えられます。
また、高齢化に伴い認知症などで判断能力が低下したり、不慮の事故に合い意識不明の状態になるケースもあります。株主総会や取締役会の必要なときに、議決権を行使できなければ、2.
で定めた事項について会社として決めることができませんし、誤った判断をされてしまう可能性もあります。この場合、成年後見制度を利用して後見人が議決権を行使する方法もありますが、最終的に誰が後見人に選任されるかは家庭裁判所の判断になりますし、後見事務の負担も少なくありません。その他にも、拒否権付き種類株式の保持が望ましくない状況を想定しておく必要は他の種類株式と比較しても高いといえるでしょう。

4.「取得条項付き種類株式」 の検討

こういった事態を避けるため、合わせて種類株式の内容として、一定の事由が生じたこと(または株主総会の決議)を条件として会社が株式を取得できる 旨の「取得条項」を定めておく方法があります。定められた取得事由に該当した場合には、その種類株式は、株主の意思に関係なく強制的に会社が回収する形となりますので、株式の散逸あるいは議決機能の停止といったリスクを抑える事ができます。
なお、取得条項付き株式の取得方法としては下記のものがあります。
① <一定の事由が生じた日に当該株式の全部を取得>
② <一定の事由が生じた日とは別に会社が定める日に当該株式の全部を取得>
③ <一定の事由が生じた日に会社が予め定めた当該株式の一部を取得>

5.「一定の事由」の定め方

取得条項の発動要件である「一定の事由」については会社法に定型のものはなく、それぞれのニーズに応じて比較的自由な設計が可能ですが、客観的に判断できる内容である必要があります。
3.で述べたような事例に対応する該当事由のほか、各事案によっても個別に考慮すべき事由など、具体的な表現や文言の選択が難しいケースもあるかと思います。
いずれにしても種類株式として定款に定める内容は、第三者にとっても明確な内容になるように専門的な視点から検討・工夫が必要といえます。

(文責 : 司法書士 丸山主税)

本レポートは法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については各々固有・格別の事情・状況に応じた適切な助言を求めていただく必要がございます。また、本稿に記載の見解は執筆担当者の個人的な見解であり、当法人若しくは当グループ又は当法人のクライアントの見解ではありません。

PLUS Report では、本誌をより充実させ皆様に有益な情報を発信していくため、皆様のご意見・ご感想をお待ちしております。採りあげますテーマなどお気軽にご意見やご要望をお寄せ頂けましたら幸いです(PLUS Report 事務局 plus-report@plus-office.com)

 

 

連載 『会社の登記と司法書士』
※PDFはこちら。
第8回 種類株式の内容とポイント~「拒否権」「取得条項」編~