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【PLUS Report 2022年8月号】改正会社法施行による電子提供制度の創設について

改正会社法施行による電子提供制度の創設について
「会社法の一部を改正する法律」(令和元年法律第70号)が令和元年12月に成立・公布され,約2年9か月が経とうとしています。
令和元年改正会社法の成立から今日に至るまでに,「取締役の報酬等」に関する規律,「株式交付」制度の創設といった,実務において大きな影響を与える重要な改正が多数施行されてきました。
そして,令和4年9月1日より,新たに「電子提供制度」が施行されます。
本制度は,インターネットを用いた株主総会の招集手続きに関するものであり,従来の方法と比べても時間や費用面で大幅なコスト削減が期待されるなど,株主総会の運営実務に大きな影響を与えることが予想されます。
また,この中でも「電子提供措置をとる旨の定款の定め」は登記事項とされているため,登記手続き面での注意も必要です。
そこで,「電子提供制度」に関する制度の概要や登記実務面での取扱いについて,本稿において解説いたします。

1.現行法における株主総会招集手続きについて

(1)株主総会の招集手続き面でインターネットを用いる制度は,新たに施行される「電子提供制度」だけではありません。
一定の要件の下で「電磁的方法(インターネット)により株主総会の招集通知(会社法第299条第3項)」を行うことや,「ウェブ開示によるみなし提供制度(会社法施行規則第133条第3項,会社計算規則第133条第4項等)」により株主総会資料の一部を提供することは,現行法上も可能です。

(2)もっとも,「書面による議決権行使」「電磁的方法による議決権行使」を行う場合や,取締役会設置会社は,株主総会招集通知を書面で行うのが原則であり(法第299条第2項),書面に代えて電磁的方法(インターネット)により招集通知を発しようとするときは,株主の個別の承諾を得る必要があります(同条第3項)。
そのため,多数の株主が存在するような場合には,株主の個別の承諾を取得することは困難であるといえるため,上記方法を利用できる場面自体も限定的といえます。

(3)また,株主総会資料の一部について,招集通知の発出時から株主総会後3か月が経過するまでの間ウェブサイトに掲載することによって,株主に提供したものとみなすという,いわゆる「ウェブ開示によるみなし提供制度」についても,重要な事項,類型的に株主の関心が高いと思われる事項等は,本来的には対象外とされております。
「ウェブ開示によるみなし提供制度」については,新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受け,対象となる資料の範囲が拡大されてはいますが,利用対象ではない資料も存在し,また,対象拡大措置には期限が設けられており,令和5年2月28日が経過した時にその効力を失うこととされております。

2.電子提供制度

(1)今回創設された「電子提供制度」は,株主総会の資料内容である情報(株主総会参考書類,議決権行使書面,計算書類,事業報告等)について,ウェブサイトに掲載し,株主に対して当該URLを株主総会の招集の通知に記載して通知した場合に,株主総会資料を適法に提供したこととなるという制度です。
特徴として,電子提供措置を行うにあたっての個別の株主の承諾は不要であることや,「ウェブ開示によるみなし提供制度」より広い範囲の情報について電子提供措置をとることができることなどが挙げられます(法325条の3)。

(2)本制度を導入する場合には,定款に電子提供措置をとる旨の定めを置く必要があり,上場会社などの振替株式を発行する会社(以下,「上場会社」といいます。)は,必ず定款に電子提供措置をとる旨を定めなければなりません。
施行日(令和4年9月1日)以前に開催される株主総会により,予め施行日を効力発生日とする定款変更決議を行い施行後に対応する上場会社がある一方で,そうではない上場会社においても,施行日を定款変更の効力発生日として電子提供措置をとる旨の定款の定めを設ける定款変更決議をしたものとみなされることとされています。
また,本制度を利用する場合であっても,株主から請求があったときは,電子提供措置事項を書面で交付しなければならず,定款に電子提供措置をとる旨を定めた場合は,株主からの書面交付請求の場合を除き,株主総会参考書類等を書面により提供して株主総会を招集することができなくなるといった点に注意が必要です。

3.登記手続

(1)定款に電子提供措置をとる旨を定めた場合,この定めは登記事項であるため,登記が必要となります(法第911条第3項第12の2号)。
登記期間は,他の登記事項と同様,定款変更の効力発生日後2週間以内とされております。
なお,上場会社で,電子提供措置をとる旨の定款の定めの定款変更決議をしたものとみなされた場合は,効力発生日(令和4年9月1日)から2週間以内ではなく,原則として施行日から6か月以内に本定款の定めを登記しなければなりません。
※もし,6か月以内に,他の登記をする場合は,他の登記申請と同時に電子提供措置をとる旨の定めを設定する旨の登記をしなければなりません。

(2)電子提供措置をとる旨の定めは,現在以下のような登記記録例が示されています(一例)。


※URL は登記事項とされておりません。
※原則として定款の文言どおりに記録することとされています。

(3)登録免許税額は,「商号の変更」「目的の変更」のような,他の定款変更による登記申請と同じく申請1件につき3万円とされています(登録免許税法別表第一第 24 号(一)ツ)

4.おわりに

本制度の利用は,殆ど上場会社が中心となるのではないかと思われます。
もっとも,株主総会資料の準備の負担の軽減や,株主による議案等の検討期間の確保といった趣旨は,多数の株主が存在する非上場会社等においても妥当するようにも思われるため,今後上場会社以外の会社にも本制度の利用が広がっていく可能性があるのではと考えます。

(文責 : 司法書士 米田圭佑)


参考文献:
・竹林俊憲編著『一問一答令和元年改正会社法(初版)』11-48 頁(商事法務,2020 年)。
・令和 4 年 8 月 3 日民商第 378 号民事局長通達。
・法務省「会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令(令和3年法務省令第45号)について」(https://www.moj.go.jp/content/001360991.pdf,2022 年 8 月 30 日最終閲覧)。

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