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【PLUS Report 2021年10月号】 『新制度のご案内「実質的支配者リストの保管・交付」』

現在,世界各国では,FATF(金融活動作業部会)主導のもと,マネーロンダリング及びテロ資金供与対策に関する様々な取り組みがなされています。
これは,我が国においても例外ではなく,商業登記分野においても上記取組みの一環として,平成30年11月30日には公証人に実質的支配者となるべき者の情報及びその者が暴力団員等に該当するか否かを申告する定款認証方式の制度が運用開始されました[1]
そしてこの度,法人の透明性を向上させ,マネーロンダリング等の目的による法人悪用を防止するという観点から,商業登記所(法務局)において,株式会社からの申し出により,実質的支配者リストを保管・交付する制度(以下,「本制度」といいます。)が新たに運用開始されます。
そこで,来年より運用開始される本制度について,本記事にてご紹介したいと思います。

実質的⽀配者とは

実質的⽀配者は,犯罪による収益の移転防⽌に関する法律施⾏規則第11条第2項により,以下のとおり定義されています。

①法⼈の総議決権の50%を超える議決権を直接⼜は間接に有する⾃然⼈
②(①の該当者が存在しないとき)法⼈の総議決権の25%を超える議決権を直接⼜は間接に有する⾃然⼈
③(②の該当者が存在しないとき)出資・融資・取引その他の関係を通じて事業活動に⽀配的な影響⼒を有する⾃然⼈
④(③の該当者が存在しないとき)法⼈を代表し,業務を執⾏する⾃然⼈

本制度においては,形式的審査が可能な①及び②のみが対象となります。

実質的⽀配者リストの概要(2021 年 10 ⽉ 18 ⽇時点)

1.運用開始日 
令和4年1月31日(月)

2.対象法人
株式会社(特例有限会社含む)

3.法務局管轄
本店所在地の管轄登記所

4.申出と交付の方法
申出書,実質的支配者リスト,その他添付書面を管轄登記所に出頭又は郵送により提供して行います。内容の整合性が確認されたときは,登記官の認証文付きの実質的支配者リストの写しが交付されます。

5.申出・(再)交付権者
対象となる株式会社(代理申請可能)※本⼈以外は申出・(再)交付は出来ません。

6.対象範囲
実質的支配者の4類型のうち,登記官の形式的審査に馴染みやすい以下の2類型が対象となります。

①法人の総議決権の50%を超える議決権を有する自然人
②法人の総議決権の25%を超える議決権を有する自然人

7.記載事項
※各項⽬要約しております。

①株式会社の商号,本店の所在場所,会社法⼈等番号
② 申出をする⽇前1か⽉以内の⼀定の⽇における,実質的⽀配者の⽒名,住所,国籍等及び⽣年⽉⽇
③ 実質的⽀配者の株式会社における議決権割合
④ 実質的⽀配者の⽀配法⼈が有する議決権がある場合は,実質的⽀配者,⽀配法⼈,株式会社の間の⽀配関係図
⑤ 実質的⽀配者の該当性の添付書⾯の名称
※株主名簿,1期⽬に限り公証⼈発⾏の申告受理及び認証証明書,2期⽬以降に限り確定申告書別表 2 等

8.保管期間
作成した年の翌年から7年間

9.⼿数料
無料

10.その他の特徴,注意点
・実質的⽀配者リストは,各添付書⾯欄記載の書⾯と整合することを確認して保管を⾏うものであり,記載されている内容が真実であることを証明するものではありません。
・申出書記載の代表者の住所,⽒名と登記簿上の代表者の住所,⽒名が異なる場合は,かかる変更登記をしなければ申出が受理されません。
・本店を他の登記所の管轄区域内に移転した場合であっても,実質的⽀配者リストの保管登記所は,申出を受けた商業登記所で保存されます。
・登記所保管の実質的支配者リスト記載の会社の商号・本店の所在場所や作成者である代表取締役について変更等の登記がなされて,実質的支配者リストの記載と登記簿の記録とに不一致が生じた場合は,再交付の申出をすることができません。この場合,新規に実質的支配者リストを作成し,改めて保管の申出をすることとなります。

今後の展望 

国際社会においては実質的⽀配者情報の把握の要請はとても強く,既に欧州においては,実質的⽀配者情報の公的機関への申告・登録,更新などが義務付けられている国もあり,⽇本においても将来的に制度の拡⼤や厳格な運⽤がなされるのではと思われます(⽶国には実質的⽀配者情報の登録制度は存在しないとのことです)。
FATF 勧告により,⾦融機関の顧客管理も重要な課題とされており,本制度は⾦融機関からの要請に基づくものでもあることから,今後は⾦融機関が顧客に対して実質的⽀配者リストの提出を求める機会が増えていくのではと思われます(公証⼈による新定款認証⽅式により交付される申告受理及び認証証明書は,既に⼀部の⾦融機関では⼝座開設時の提出書類とされています)。
また,実質的⽀配者リストの保管申出を公的機関に⾏っていることそのものが,対外的な信頼性の向上や法⼈の透明性のアピールに繋がるとともに,内部的にも,提出⽤株主名簿の作成を都度⾏うという煩雑な事務処理から解放されるなどの効果も期待されます。
もっとも,オンライン申出は制度化されておらず,商業登記簿の登記の変更が実質的支配者リストに反映されるわけでもありません。また,申出する際は申出前1か⽉以内の実質的⽀配者情報に限る等の申出時点の情報鮮度は確保されてはいるものの,その後の更新義務が課されていないことから,必ずしも登記所保管の情報が最新の情報というものではありません。
このように,利便性の向上・正確な情報の反映といった制度運⽤上の課題は残されています。
さらに,法⼈に関する様々な情報が⼀元管理されることは,集約された情報が本来の⽬的と離れて使⽤されるといった潜在的な危険が内在しているといえるため,法⼈の不正使⽤防⽌⽬的と株主等法⼈側の利益保護との調整やルール整備は,本制度を展開していく上で今後さらに検討する必要があるといえます。

おわりに

実質的⽀配者リストの申出・交付⼿続きは司法書⼠が代理可能な制度です。
また,当法⼈は企業法務に精通した司法書⼠が多数在籍しており,実質的⽀配者リストを始めとした最先端の制度にも熟知しており柔軟に対応することができます。
本制度の活⽤を検討されている皆様は,ぜひ⼀度当法⼈へお問い合わせ下さい。
 

(⽂責 : 司法書⼠ ⽶⽥圭佑)



[1]新定款認証方式については,【PLUS Report 2018年11月号】連載「会社運営に役立つ法制度」 第10回 実質的支配者情報の申告 ~設立時のルールが厳格に~(https://plus-office.jp/archives/435)をご参照下さい。


参考⽂献:
・商業登記所における実質的⽀配者情報⼀覧の保管等に関する規則(令和3年法務省告⽰第187号)
・「商業登記所における実質的⽀配者情報⼀覧の保管等に関する規則の施⾏に伴う事務の取扱いについて(通達)」(令和3年9⽉17⽇付け法務省⺠商第159号⺠事局⻑通達)
・FATF(⾦融活動作業部会),「対⽇相互審査報告書の概要(仮訳・未定稿)」,⾦融庁,https://www.fsa.go.jp/inter/etc/20210830/20210830.html(2021.10.18)
・法務省,「実質的⽀配者リスト制度の創設(令和4年1⽉31⽇運⽤開始)」https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00116.html(2021.10.18)
・法務省,商業登記所における法⼈の実質的⽀配者情報の把握促進に関する研究会,https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00044.html(2021.10.18)

※PDFはこちら。
新制度のご案内「実質的支配者リストの保管・交付」