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【PLUS Report 2017年1月号】連載『ヘルスケア~医療・介護法制シリーズ』 第3回 法人制度比較 ~ 改正医療法を踏まえながら(後編)

連載企画 『ヘルスケア~医療・介護法制シリーズ』

第3回 法人制度比較 ~ 改正医療法を踏まえながら(後編)

新年明けましておめでとうございます。平成 27 年からスタートしました PLUS Report もお陰様をもちまして今年で3年目を迎えることができました。引き続き皆様にとって有益な情報の提供に努めて参りますので、本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

PLUS Report では執筆者担当毎の連載企画をスタートさせ、司法書士・医療経営士(2級)森田良彦にて、医療・介護を中心としたヘルスケア分野の法制度に関するトピックスを担当しております。

今月号では、前回号(中編)に引き続き、医療法人とその他の法人制度の比較に関するお話をさせていただきます。前回は特に組織再編と称される手続(合併、分割、etc.)にスポットを当て、まず組織再編法制が最も発達・整備されている株式会社(会社法)を採り上げて、合併及び分割制度そのものの趣旨・意義や、各制度間の特徴・相違点等を、比較を通じてご案内いたしました。本号では、医療法人の合併・分割の具体的な「中身」について、前号と同様に会社法と比較しながらお話いたします。

PLUS Report では、本誌をより充実させ皆様に有益な情報を発信していくため、皆様のご意見・ご感想をお待ちしております。採り上げますテーマなどお気軽にご意見やご要望をお寄せ頂けましたら幸いです(PLUS Report 事務局 plus-report@plus-office.com)。

1.合併・分割手続の全体像(株式会社の吸収合併をモデルに)

(1)法務手続の構造とプロセス・スケジュール
吸収合併等通称「組織再編」と称される手続は、着手から手続完了まで長期間に亘り且つ様々なプロセスを経る必要があるため、手続の全体像を把握・理解しづらい傾向があります。まず日常的にといってよいほど行われている株式会社の吸収合併をモデルに、合併手続全体を
鳥瞰し法務手続の全体構造を把握していただいたうえで、個々のプロセス・スケジュールに関するお話を進めていきたいと思います。
*前回号にてご案内のとおり、合併は組織再編手続の資産承継型・持分(株式)承継型の双方を兼ね備えた手続ですので、合併が理解できますと他の組織再編手続の理解も容易になります。また、会社では新設合併の登記申請件数が年間で 10 件に満たない程度で実務上採用されることが稀であることから、吸収合併のみを採り上げてお話を進めます。

(2)吸収合併手続の全体構造(株式会社)
別添資料の右上図が、株式会社の吸収合併手続の全体構造を表す鳥瞰図です。要約しますと、「合併契約の締結後、
→ 対象会社の利害関係人=株主・会社債権者へ合併に関する一定の情報公開
→ 官報による公告及び利害関係人に対する通知等により合併への異議申述の機会を付与。
異議を述べた者に対し弁済(会社債権者)、株式の買取り(株主)等の保護措置の履行
→ 並行して株主総会を招集・開催・合併契約の承認決議
→ 合併契約で定めた効力発生日の到来 ⇒ 存続会社が消滅会社の権利義務全部を承継し、消滅会社の解散・法人格が消滅」
する手続といえます。
鳥瞰図の左側が債権者を保護するためのプロセスです。株式会社の場合、合併を行う旨を国の新聞である官報により公告したうえで、法人が把握している債権者に対しては個別に通知を行います。公告及び通知の内容は、合併の当事会社を明記のうえ、合併に異議のある債権
者は所定の期間(最低1か月間)内に異議を述べることができる旨を明らかにします。なお、個別の通知のみならず官報による公告が義務付けられるのは、会社が把握していない債権者が存在する場合にこれを周知させる趣旨です。
鳥瞰図の右側が少数株主を保護するためのプロセスです。株式会社では、締結された合併契約を株主総会に提出しその承認決議を経ることを要します。決議要件は普通決議よりも加重されているため、相当数の株主(議決権)が契約に反対しますと合併そのものができません。
株主総会による承認がなされた場合でも、合併の法的性質~会社の基礎に大きなインパクトを与える手続~であることから、合併に反対する少数株主に投下資本を回収する機会(会社による株式の買取手続)を付与し、これを保護することが義務付けられています。具体的には、合併契約で定めた効力発生日の 20 日前までに、株主に対し合併の当事会社及び合併をする旨を通知する手続です。この通知は、株主総会の招集通知等と併せて行うこともできます。
これら債権者保護手続、少数株主保護手続及び株主総会による合併契約の承認決議をすべて履行後、効力発生日の到来をもって吸収合併=存続会社による消滅会社の権利義務全部の承継が行われます。

(3)吸収合併手続のスケジュール(株式会社)
株式会社の吸収合併の法務手続スケジュールは、別紙左面のとおりです。合併契約の締結後は、(2)で述べた3つの手続(債権者保護・少数株主保護・株主総会による承認決議)を、順不同でよいので効力発生日までにすべて履行すれば合併の効力が生じます。例えば、株主
総会による承認決議は、効力発生日の前日でも構いません。
株式会社の吸収合併においては、官報公告の掲載手続がスケジューリングにもっとも大きなインパクトを与えます。掲載日から 1 か月間の待機(=異議申述)期間を要することに加え、掲載手続の都合上、申込みから掲載までの間に(原則)約3週間を要します。これらはいずれも短縮することができませんので、想定した効力発生日までの間にこの不動期間を包摂できるかが手続成否の鍵を握ります。

(4)医療法人の吸収合併手続
医療法人の合併においては、4つの点において株式会社と大きく異なります。
①都道府県知事の認可が吸収合併の効力要件となっている(医 58 の 2Ⅳ)
株式会社も銀行や運送業等一定の許認可事業を営んでいる場合には、国等の許認可が合併の効力要件となる場合がありますが、医療法人では、常に都道府県知事の認可を要します。
②社員に関する保護手続規定が置かれていない
社団たる医療法人が合併するときは、吸収合併契約について当該医療法人の総社員の同意を要する(医 58 の 2Ⅰ)ので、1人でも反対する社員がいると合併そのものができません。
③債権者保護手続の異議申述期間が2か月間である(医 58 の 4Ⅰ)
株式会社の場合(最低)1か月ですので、その倍の待機期間を設けなければなりません。
④手続のプロセスが会社と比較して弾力性に欠ける会社の場合は、所定の手続を順不同で履行し効力発生日までに終えることをもって足りますが、医療法人ではそのプロセスが厚生労働省の通知により次のとおり定められています
(医政発 0325 第 5 号・平成 28 年 3 月 25 日)
吸収合併契約の締結 → 総社員の同意 → 合併認可の申請 → 医療審議会の意見→ 合併の認可 → 認可通知日現在の財産目録及び貸借対照表の作成・備置き及び債権者に対する公告・各別の催告 (合併の認可通知日からいずれも 2 週間以内) →2か月の公告・催告期間の満了 → 合併登記の申請(効力発生)

(5)医療法人の合併手続スケジュール
福岡県では、平成 28 年度の医療審議会はこれまでに 9 月 12 日及び 12 月 1 日の 2 回開催されています。医療法人の再編を促すため、都道府県の医療審議会の開催については柔軟な運用が求められていますが、合併の認可申請と医療審議会の開催のタイミング次第では認可
が下りるまでにかなりの期間を要し、更に認可が下りない限り公告・催告等の「先のプロセス」に進むことができないため、会社の合併手続の標準的な期間である3~4か月と比較すると、6か月~1年と会社の2、3倍の期間を要することも想定されます。スケジュールを含め都道府県との事前協議・摺合せが、迅速且つ円滑な手続の進捗に不可欠と言えるでしょう。

(文責 : パートナー司法書士・医療経営士2級 森田良彦)

本レポートは法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については各々固有・格別の事情・状況に応じた適切な助言を求めていただく必要がございます。また、本稿に記載の見解は執筆担当者の個人的な見解であり、当法人若しくは当グループ又は当法人のクライアントの見解ではありません。

連載『ヘルスケア~医療・介護法制シリーズ』
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第2回 法人制度比較 ~ 改正医療法を踏まえながら(後編)
【別紙】吸収合併手続(会社法)の全体像及びスケジューリング (モデルケース)