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【PLUS Report 2015年10月号】新連載『ヘルスケア~医療・介護法制シリーズ』 第1回 医療法人 ~制度創設とその変遷~(後編)
新連載 『ヘルスケア~医療・介護法制シリーズ』
第1回 医療法人 ~制度創設とその変遷~(後編)
PLUS Report では7月号から執筆者担当毎の連載企画をスタートさせておりますが、新連載の第2弾として、医療・介護を中心としたヘルスケア分野の法制度に関するトピックスを、司法書士・医療経営士(2級)森田良彦が担当しております。
今月号は『医療法人~制度創設とその変遷~』の後編として、先月 16 日に参議院本会議にて可決されました最新の医療法改正の概要を、これまで同様医療法人に関する改正点にスポットを当ててご紹介したいと思います。
PLUS Report では、本誌をより充実させ皆様に有益な情報を発信していくため、皆様のご意見・ご感想をお待ちしております。採り上げますテーマなどお気軽にご意見やご要望をお寄せ頂けましたら幸いです(PLUS Report 事務局 plus-report@plus-office.com)。
4.本改正の概要
第6次改正法(平成 26 年)の施行からほどなく、本年 9 月 16 日に改正医療法が参院本会議において可決され、同月 28 日に公布されました。
(1)本改正のポイント
□本改正は、①「地域医療連携推進法人制度」の創設 ②医療法人制度の見直し の2つが大きな柱となっており、①は医療機関相互間の機能分担・業務の連携の推進 ②は医療法人の経営の透明性の確保・ガバナンスの強化 が各々の改正趣旨となっております。また、医療法人制度の見直しにおいては新たに医療法人の分割制度が設けられました。以下に各改正の中身について触れてまいります。
(2)「地域医療連携推進法人制度」の創設
①「地域医療連携推進法人」とは
地域における良質かつ適切な医療を効率的に提供するため、都道府県知事の認定を受けた一般社団法人を「地域医療連携推進法人」と位置付け、病院等の医療機関を開設する医療法人等の非営利法人が参加法人(社員=構成員)となり、病院等相互間での機能・役割の分担、業務連携の推進をはじめ、グループ間での病床や資金、人員の融通のほか、医療従事者の研修、医薬品等の共同購入等を実現することを目的として創設されました。また、医療機関のほか、介護事業その他の包括ケアシステムの構築に資する事業を営む法人も参加法人となることが可能で、地域における医療・介護サービスの切れ目ない提供を実現するための枠組みのひとつとして位置付けられています。なお、参加法人は非営利法人に限られるため、株式会社等の営利法人が加わることは認められていません。
②本制度創設の背景
地域医療連携推進法人制度の創設は、昨年 1 月の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)において、安倍総理大臣が「~日本にも、(米国の)メイヨークリニックのような、ホールディングカンパニー型の大規模医療法人ができてしかるべきだから、制度を改めるようにと追加の指示をしました」と発言したことに端を発しています。
「メイヨークリニック」は米国に 600 近く存在するIHN(Integrated HealthcareNetwork)のひとつです。IHNとは、「広域医療圏において、急性期ケア病院、亜急性期ケア病院、外来手術センター、プライマリーケアクリニック、検査・画像診断センター、リハ
ビリ施設、介護施設、在宅ケア事業所、医療保険会社など、地域住民に医療サービスを提供するために必要な機能を可能な限り網羅的に有する医療事業体」と定義づけられています。
米国には営利団体が開設する病院もありますが全病院の約半数は民間非営利団体が開設主体であり、IHNも約4分の3が非営利民間型と推定されています。このIHNとの対比を通じて地域医療連携推進法人の特質を浮かび上がらせてみたいと思います。
600 近いIHNの中で 10 年連続でトップ 10 入りを果たし、2010 年にはIHN経営力評価ランキングで第 1 位に選出されたセンタラ・ヘルスケア(バージニア州)の特徴は次のとおりです。
・8 つの病院と 100 以上のサテライト施設を配置し、地域医療保険会社も併設。
・非常勤も含めた職員数は約 2 万人であり、民間では地域最大の雇用主。
・医療サービス及び医療保険の収入は合計で約 21 億ドル(2005 年)。
・医科大学を併設。開業医とのネットワークを構築し、機能重複を避け相互補完の関係を築く。
・親会社機能を営む法人の理事会は 17 名で構成され、うち 16 名が無報酬の地域住民代表、残る 1 名が最高経営責任者(CEO)。16 名の理事が CEO に経営を委任。
・医療セーフティネット機能を営み、慈善医療を提供(年間約 9000 万ドル)することを条件に税制上の優遇を受けるが、州政府や自治体からの補助金を受けずよって経営への介入も受けない。
・得られた利益はすべて地域に還元する。また、IHN が売却されたときは財団が組成され、その「使い道」は地域住民が決定する。
あくまで地域住民の・地域住民による・地域住民のための事業体であり、規模のメリットを追求しつつ、多くの症例から「臨床プロトコル」=医師集団が臨床現場を進化させ続ける仕組みを構築、各疾病の臨床内容の70~80%を標準化することにより医療サービスの質の維持・向上を図り、もって良質且つ適切・効率的な医療を提供することを実現しています。
③地域医療連携推進法人の設立・運営上の概要
翻って今般新設された、我が国の地域医療連携推進法人の設立・運営に関しては次のような規定が置かれています。
・一般社団法人が都道府県知事に対し「医療連携推進認定」を申請・認定を受ける。
・都道府県が定める医療計画における地域医療構想の達成及び包括ケアシステム構築への積極的な努力義務が課される。
・病院等の開設又は介護事業等の施設若しくは事業所を開設・管理しようとするときは、医療連携推進業務の実施に支障のないことについて、あらかじめ都道府県知事の確認を受けることを要する。
・代表理事の選定・解職には都道府県知事の認可を要する。
・剰余金の配当を禁止し、都道府県知事による監督等の規定について医療法人に対する規制を準用する。
・参加法人が予算や事業計画の決定又は変更、重要な財産の処分、定款又は寄附行為の変更その他重要な事項を決定するに当たっては、あらかじめ当該一般社団法人に意見を求めることを義務付ける。
・清算をする場合、残余財産を国等に帰属させる旨を定款で定めることを義務付ける。
以上の規定内容から、地域医療連携推進法人制度は、民間が運営する医療機関の連携・統合のための枠組みというよりも、むしろ国公立病院の整理・統廃合を推進するためのツールと捉えた方がより適切であるとの見方も示されています。
(3)医療法人の経営の透明性の確保・ガバナンスの強化
医療法人にも、株式会社や一般社団法人・一般財団法人と同様の機関設計及び役員の責任に関する規律を明記・ガバナンスの強化が図られたほか、医療法人又はその役員と特殊の関係にある事業者との取引に関する状況が都道府県知事への報告事項として追加されました。更
には、一定規模以上の医療法人は、厚生労働省令で定める会計基準に基づき貸借対照表・損益計算書を作成すること及びこれらについて公認会計士等による監査を経たうえで公告をすることが新たに義務付けられました。
①機関設計の制度比較 ~医療法人(社団)-株式会社
我々にとって馴染み深い法人格である株式会社(会社法)と比較しますと、社団医療法人の機関設計に株式会社のそれが大いに参考にされていることが伺えます。一例として株式会社の取締役会と医療法人の理事会の規定ぶりを比較してみますと次のとおりです。
(取締役会)
第 362 条 取締役会は、すべての取締役で組織する。
2 取締役会は、次に掲げる職務を行う。
一 取締役会設置会社の業務執行の決定
二 取締役の職務の執行の監督
三 代表取締役の選定及び解職
(第 3 項省略)
4 取締役会は、次に掲げる事項その他重要な業務執行の決定を取締役に委任することができない。
一 重要な財産の処分及び譲受け
二 多額の借財
三 支配人その他の重要な使用人の選任及び解任
四 支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止
(以下略)
(理事会)
第 46 条の 7 理事会は、全ての理事で組織する。
2 理事会は、次に掲げる職務を行う。
一 医療法人の業務執行の決定
二 理事の職務の執行の監督
三 理事長の選出及び解職
3 理事会は、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を理事に委任することができない。
一 重要な資産の処分及び譲受け
二 多額の借財
三 重要な役割を担う職員の選任及び解任
四 従たる事務所その他の重要な組織の設置、変更及び廃止
(以下略)
法人の構成員(株式会社=株主・医療法人=社員)、業務執行に関する合議・意思決定機関(株式会社=取締役会・医療法人=理事会)、法人の業務及び財産状況の監査機関(株式会社=監査役・医療法人=監事)と、医療法人においてもそれぞれの位置付けと役割が明確になり、また、役員の医療法人及び第三者に対する損害賠償規定も新設されその義務と責任が明文化されました。
②その他役員に関する改正 ~ 特別代理人制度の廃止
理事長と医療法人との利益が相反する事項に関して、現行法では、理事長の代表権が制限され特別代理人を選任することが義務付けられています(第 46 条の 4 第 6 項)が、改正法では、特別代理人制度が廃止・一般社団法人における規律が準用され、社員総会における重要事実の開示と当該総会による承認を受けるものとされました。医療法人の機関設計・ガバナンス・責任の明確化・強化が図られたことと「トレードオフ」で、過度の規制として廃止されたものと思われます。
(4)医療法人の分割制度の導入
医療法人の組織再編のための手段として、合併に加え新たに「分割」(吸収分割・新設分割)が認められることとなりました。
①吸収分割はいわば「一部吸収合併」で、吸収合併では消滅法人の権利義務全部が存続法人に承継され消滅法人は解散するのに対し、吸収分割では分割法人の権利義務の一部が承継法人に承継され、分割法人は引き続き存続する点が合併と異なります。
②新設分割は、分割法人がその権利義務の一部を新たに設立する法人へ承継させるもので、
株式会社がその有する資産を現物出資して新たに子会社を設立する行為と類似しています。
もっとも、合併と異なり、すべての医療法人が分割をすることができるものではなく、改正法第 60 条に「医療法人(社会医療法人その他の厚生労働省令で定める者を除く。以下この款(=
第二款 分割)において同じ。)~」と規定されており、社会医療法人のほか、省令により持分を有する医療法人が除外される見通しです。現存する 5 万近い医療法人のうち 4 万 1000 を超える持分を有する医療法人が分割制度を活用することが叶わないかたちとなります。
本企画連載の次号では、医療法人を含めた各種法人制度を鳥瞰しながらご案内差し上げたいと思います。グループ経営やガバナンス体制構築の際のご参考になればと存じます。
(文責 : パートナー司法書士・医療経営士2級 森田良彦)
本レポートは法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については各々固有・格別の事情・状況に応じた適切な助言を求めていただく必要がございます。また、本稿に記載の見解は執筆担当者の個人的な見解であり、当法人若しくは当グループ又は当法人のクライアントの見解ではありません。新連載 『ヘルスケア~医療・介護法制シリーズ』
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第1回 医療法人 ~制度創設とその変遷~(後編)