PLUS Report~民事信託編~PLUS Report

【PLUS Report ~民事信託編~第10回】 受益者・受益権について

『新しい相続・財産管理の方法~民事信託~』

第10回 受益者・受益権について

受益者とは

受益者とは,「委託者が信託の利益を与えようと意図した人たち,または,彼らの権利を承継した人たち」のこと,逆にいえば,信託から生じる経済的な利益を直接受ける主体となるのが受益者です。受益者は信託行為(契約や遺言等)の定めにより指定されます。

受益者の資格

受益者となりうる資格は,信託では信託法上,特に制限されていません。よって,自然人(人)の他に,法人も受益者となることができます。死者は受益者となることはできませんが,胎児は受益者となることができます。また,複数の者が受益者となることもできます。ただし,現信託法9条の脱法信託との関係において,信託財産の性格上,ある者が一定の範囲内で受益者となることができないケースはあります。たとえば,外国人が受益者として鉱業権を保有するような信託は無効となります。

民事信託の受益者について

民事信託を活用するにあたり,一般的に委託者本人が受益者となることが多いです。委託者本人が高齢で,財産管理を自分で適切に行えなくなることに備えて,自分が信頼できる第三者に自分の為に財産の管理をしてもらう手段として,民事信託を活用する,いわゆる「福祉型の信託契約」と呼ばれる信託の方法です。このカタチが多いのは課税の問題の影響があります。委託者と受益者が異なる信託(他益信託)を設定すると,委託者から受益者への利益提供があったものとみなされるため,当初は委託者本人が受益者となるケース(自益信託)でスタートすることが多いのです。
高齢の委託者本人が受益者となる場合以外にも,次のケースがあります。

高齢の配偶者を受益者とする民事信託

高齢の配偶者が適切に財産を管理できない,また,配偶者が既に認知症で財産管理ができない場合に,その配偶者の安定した生活や福祉を確保したいという委託者の想いから,信託行為(契約または遺言等)で配偶者が受益者に設定されるケースもあります。ただしこの場合は,当初から委託者≠受益者(他益信託)となるので,課税に注意が必要です。

障がいのある子を受益者とする民事信託

これは「親なき後問題」を信託で解決するための方法の一つです。知的障がいや精神障がい等により,本人では適切に財産管理ができないという理由で,子が受益者となるケースです。親の死亡後の財産管理を解決するため,当初は委託者である親が受益者となり,親の死亡により,帰属権利者もしくは受益者連続信託による第二次受益者を障がいのある子とするケースです。また,障がいのある子に子や兄弟などの法定相続人がいない場合には,親から受け継がれる財産が国のものとなってしまう為,最終の財産の承継先をお世話になった親戚や施設(法人)にしたいという希望からこのスキームを採用するケースも多くあります。
※帰属権利者・・・信託が終了した際の残余財産の帰属すべき者。
※第二次受益者・・・当初受益者が有する受益権が消滅し,その後新たにに受益権を取得した者。

信託行為(契約や遺言等)に,信託終了事由として「受益者が死亡した場合」が定められていた場合は,信託財産はその信託行為に記載されている帰属権利者か,委託者の法定相続人に承継されます。もし,信託終了事由に,受益者の死亡した場合が定められておらず,次の受益者(第二次受益者)が定められていれば,その定められた者が受益者となります。

浪費者を受益者とする民事信託

相続により,一括で大きな財産が子に渡ると,短期的に散財して相続財産を失ってしまいかねません。これを回避するために民事信託を活用したいという親の願いから,浪費者の子を第二次受益者にするケースがあります。この場合,受託者は定期的に生活資金を浪費者である子に給付する旨を信託行為(契約,遺言等)で定めておきます。

遺産承継者や事業承継者としての子及び孫等を受益者とする民事信託

このような受益者は,第一次受益者としてではなく,第二次受益者として設定されることが多く,主に遺産承継や事業承継の方法として信託が活用されます。

【参考文献】
新井誠「信託法(第4版)」(有斐閣),遠藤英嗣「新しい家族信託(増補版)」(日本加除出版株式会社)

(文責 : 司法書士 重信吉孝)

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『新しい相続・財産管理の方法~民事信託~』
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